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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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- ヴェマ遺跡調査編- 第2話 ― 川下りと追跡者



大河は午後の光を飲み込み、銀の帯のように流れていた。

小舟の上、ミルダは革のノートを胸に抱え、詩的な言葉を連ねている。

「――“水は恋人を運ぶ道、流れは絆の象徴”……どうですか、アリアさん!」


「まずは舟をまっすぐ保つのが先です」

アリアは櫂を握り、川面を見据えた。


ロッドは、というと。

「よーし、次は落ちねえぞ!」

舟の縁に腰をかけ、魚を素手で掴もうと身を乗り出す。

アリアの瞳が冷ややかに細くなる。

「落ちる前提で行動しないでください」


舟が流れに揺れた瞬間、茂みの奥から小さな反響音がした。

アリアは櫂を止め、耳を澄ます。

(……石弓の金具が鳴った。尾行者がいる)



茂みの影。

羽根つき帽子をかぶった大男が、片眼鏡をかけ直した。

「へへっ……奴らが例の遺跡を目指してる連中か」

盗賊団団長、ボルガンである。


「団長、まだ早いですよ。川下りの途中で仕掛けても、逃げられちまう」

痩せた男――ナイフ投げのキリルが、片手で刃を弄ぶ。


紅のスカーフを巻いた女――モーラが鼻で笑った。

「追いつめてから一気に奪うのよ。小舟ごと転覆させてやればいい」


「よし! 転覆だ!」

「いや、団長、川に落ちたら宝も沈みますけど」

「む……確かに」


三人はひそひそ言い争いながら、舟の後をつけていった。



川の曲がり角にさしかかったとき、突如として流木が横倒しに流れてきた。

ロッドが「あぶねっ!」と身を引く。

アリアは櫂で舟を押し、流木をかわす。


「自然の流木にしては、動きが速い」

アリアの目が鋭くなる。


茂みの陰から、石弓の矢がひゅんと飛んできた。

舟の縁に突き刺さり、水しぶきが跳ねる。


「出た!」

ロッドが大剣を抜き、舟の上で仁王立ちする。舟は大きくぐらついた。

「落ちる! 座れ!」

アリアの怒声にロッドは慌てて腰を下ろす。


川岸に三人組の影。

「お宝を狙うなら、俺たち盗賊団ボルガンズが先だ!」

羽根帽子の大男、ボルガンが胸を張る。


「ボルガンズって名前、初耳ですけど……」

アリアが眉をひそめる。


「これから売り出すんだよ! いま考えた!」

モーラが額を押さえる。「団長、こういうときは黙っていれば格好いいのに」


キリルがナイフをひとつ投げた。

……が、舟の舳先に突き刺さらず、川に落ちてぽちゃん。

「くっ、風が悪い」

「腕が悪いのよ」モーラが冷たく言う。


「……非致死・ほどほど、ですね」

アリアは腰から短槍を抜き、舟の縁に柄をつける。

舟が流れに乗って近づいた瞬間、短槍で川面を突き――水飛沫を盗賊たちに浴びせた。


「ぎゃああ!」「目に入った!」「化粧が!」

三人は一斉にのけぞり、岸の泥に尻もちをついた。


ロッドが豪快に笑う。「さすがアリアさん! 敵を濡らして撃退とは!」

「……言葉にすると締まらないですね」


舟はそのまま流れに乗り、盗賊団を置き去りにして進んでいった。



しばらく進むと、川岸に上陸する地点が見えてきた。

舟を止め、荷物を担ぎ上げる。


ミルダはまだノートを握りしめていた。

「すごいですね! 本当に冒険小説みたい! “水飛沫の女騎士”って書きます!」

「……やめてください」


アリアが外套を軽く絞ると、肩口から水が滴った。

尾行者は退けたが、確実にまた現れるだろう。

(あの三人……完全に諦める顔ではなかった)


ジャングルの奥に、古代遺跡の石塔が影を落としている。

冒険はまだ始まったばかりだった。


(第3話「遺跡の罠」へ続く)


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