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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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-ヴェマ遺跡調査編- 第1話 ― 押し付けられた依頼


ギルドの掲示板は、昼下がりのざわめきに包まれていた。

「運搬依頼」「畑の害獣退治」「採集補助」……紙が新しい順に上から並ぶ。

アリアは外套の裾を直し、旅の資金の足しになりそうな小さな仕事を探していた。


そのとき。

「アリアじゃない!」

背後から明るい声。振り返ると、赤髪をざっくり結んだエミリアが立っていた。

鎧は軽装だが一目で質の良さがわかる。肩で風を切るようなA級冒険者だ。


「エミリア……? なぜこの町に」

「遠征よ、遠征! ほら、資料の整理と調査を兼ねて。いやー、遠い川筋まで来たら退屈でねぇ」


アリアはほっと微笑み――かけて、エミリアの手に掴まれた。

「ちょうどいい! あなたにぴったりの依頼があるの」


「……はい?」

気づけば、依頼書をぐいっと胸に押し付けられている。

表には大きく《大河沿いのヴェマ遺跡の調査》とある。


「遺跡? ……これは、ギルドでも難度が高い類では」

「そうよ。だからA級の私に来たの。でもね、私は別件も抱えてて忙しいの」

エミリアはあっけらかんと笑った。

「で、ここで顔見知りの女騎士が偶然いる。はい解決!」


「……オイちょ…待てっ」

アリアが言葉を繋ぐ前に、エミリアはもう出口へ。


「同行者は手配済み! 可愛い依頼人と頼もしい(?)護衛もいるから安心安心。

私は別件あるからまたねー!」


手をひらひら振りながら、実に爽快な去り際だった。

残されたアリアは依頼書を持ち、深いため息をひとつ。

(……押し付けるのは、ほどほどにしてほしい)



ギルドの奥の席で待っていたのは、二人。

ひとりはミルダ。栗色の髪を三つ編みにした若い女性で、胸元に革のノートを抱えている。

「私、恋愛小説を書いているんです! “宝石の伝説”を題材にしたいから、どうしても現地を見たくて……」

目がきらきらしている。冒険の危うさをまるで知らない輝きだ。


もうひとりはロッド。大柄で筋肉質、背中に大剣。

「おう! B級のロッドだ。腕っぷしなら任せろ!」

豪快に笑うが、腰帯が半分ほど緩んでいる。

(……不安しかない)


「つまり」

アリアは依頼書を卓上に置いた。

「私はあなたたち二人の護衛兼まとめ役ということですね」


「そうです!」「おう!」

元気な返事が重なった。

アリアは額に手を当てる。



数日後。

大河に浮かぶ小舟に、三人が乗っていた。

ミルダは水面に映る青空を見て「詩的ですね!」と感嘆し、ロッドは舟べりから身を乗り出して「魚ー!」と叫んでいる。

アリアは櫂を動かしながら周囲を警戒していた。


「アリアさん! この遺跡の宝石、恋人たちの契りを固める“真紅の石”なんですって!」

ミルダがノートに走り書きをする。

「実際は何かわかりません。誇張も多い。危険が伴うのは確かでしょう」


「危険? 俺に任せろ!」

ロッドが胸を叩いた瞬間――ぐらり、と舟が傾く。

ぼちゃん!

「ぎゃああああっ!」

派手な水飛沫とともに、ロッドが川に落ちた。


「……」

アリアは舟の縁に片膝をつき、淡々と櫂を差し出す。

「掴め」

「お、おう……助かった……」

全身びしょ濡れのロッドが這い上がると、ミルダは必死にノートを胸に抱えて守っていた。


「もう! 危うく伝説が濡れるところでした!」

「ノートより先に俺を心配しろ!」

「ノートが命より大事なんです!」

「そんなバカな!」

舟上に笑いが広がり、アリアはひとり小さくため息。

(……この先が思いやられる)



そのとき。

川岸の茂みがわずかに揺れた。

アリアは一瞬だけ視線を走らせる。

(……気配。舟を追う者がいる)


舟は流れに乗って、遺跡への道を進む。

アリアは腰の剣に軽く手を添えた。

――次の騒ぎは、水音では終わらないかもしれない。


(第2話へ続く)


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