魔境国アリアンロッド・学園編 その2 精進の膳と午後の教え
午前の座禅を終えた子供たちは、すっかりくたびれていた。
しびれた足をさすりながらも、どこか誇らしげな顔をしている。
「……つ、つらかったけど、なんかスッキリした」
「眠いのに眠ってないみたいな感じ」
「ピピ、がんばった!」
ルーンとトットも苦笑しながらうなずく。
「まあ、初めてにしては上出来よね」
「……ああ。子供らの顔、少し落ち着いた」
すると、豪善が手を叩いた。
「さて、腹も減ったじゃろ。昼は寺の精進料理じゃ!」
広間に畳の膳が並べられ、湯気を立てる椀が置かれていく。
炊きたての麦飯に、胡麻和え、煮物、山菜の天ぷら、味噌仕立ての汁――。
肉も魚もないはずなのに、香りがふくよかで、見た目も鮮やかだった。
「わぁ……!」
「これ、全部野菜なの?」
「お肉みたいに見える……」
子供たちが箸を手に取ると、円真が静かに告げた。
「食事は“命をいただく”修行でもあります。一口目は感謝を込めて、よく噛んで」
宗蓮は何も言わず、ただ子供たちの所作を見守っていた。
やがて、最初の一口を味わった子供たちが、驚きの声をあげた。
「おいしい!」
「これ、お肉よりうまいかも!」
「ピピ、もう一杯!」
豪善が大笑いしながら椀を差し出す。
「がはは! ほれ、もっと食え。まだまだあるぞ!」
昼の食卓は賑やかに笑い声で満ち、厳しい午前の空気が一気に和らいだ。
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午後。
境内の木陰に座布団を並べ、僧たちが授業を始めた。
「午前は“己を見つめる”だった。午後は“世を見つめる”じゃ」
豪善が言うと、子供たちは首をかしげた。
「世を見つめる?」
「どういうこと?」
円真が微笑み、紙を広げる。
そこには簡単な絵で「人が人を助ける」「人が自然に祈る」姿が描かれていた。
「世界はつながっています。人と人、人と自然、自然と精霊。
それを忘れた時、戦も争いも生まれるのです」
宗蓮が枝を拾い、砂に一つの円を描いた。
円の中に点をいくつか打ち、線で結ぶ。
「己もまた、この中の一点にすぎぬ。
だが、点は必ずつながっている。だからこそ、己の行いは必ず誰かに響く」
子供たちは真剣な眼差しで聞き入り、やがて「なるほど」と小さくうなずいた。
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帰り道、子供たちは口々に今日の感想を語っていた。
「また来たい!」
「精進料理、もう一回食べたい!」
「……座禅はちょっとイヤ。でも、がんばる」
ルーンとトットは顔を見合わせ、そっと笑った。
「……悪くない一日だったわね」
「うむ。あいつら、きっと強くなる」
その背後で、豪善・円真・宗蓮が並んで見送っていた。
宗蓮が低くつぶやく。
「……大将の頼みとはいえ、なかなか面白い子らじゃ」




