表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

577/666

魔境国アリアンロッド・学園編 その2 精進の膳と午後の教え


 午前の座禅を終えた子供たちは、すっかりくたびれていた。

 しびれた足をさすりながらも、どこか誇らしげな顔をしている。


「……つ、つらかったけど、なんかスッキリした」

「眠いのに眠ってないみたいな感じ」

「ピピ、がんばった!」


 ルーンとトットも苦笑しながらうなずく。

「まあ、初めてにしては上出来よね」

「……ああ。子供らの顔、少し落ち着いた」


 すると、豪善が手を叩いた。

「さて、腹も減ったじゃろ。昼は寺の精進料理じゃ!」


 広間に畳の膳が並べられ、湯気を立てる椀が置かれていく。

 炊きたての麦飯に、胡麻和え、煮物、山菜の天ぷら、味噌仕立ての汁――。

 肉も魚もないはずなのに、香りがふくよかで、見た目も鮮やかだった。


「わぁ……!」

「これ、全部野菜なの?」

「お肉みたいに見える……」


 子供たちが箸を手に取ると、円真が静かに告げた。

「食事は“命をいただく”修行でもあります。一口目は感謝を込めて、よく噛んで」


 宗蓮は何も言わず、ただ子供たちの所作を見守っていた。

 やがて、最初の一口を味わった子供たちが、驚きの声をあげた。


「おいしい!」

「これ、お肉よりうまいかも!」

「ピピ、もう一杯!」


 豪善が大笑いしながら椀を差し出す。

「がはは! ほれ、もっと食え。まだまだあるぞ!」


 昼の食卓は賑やかに笑い声で満ち、厳しい午前の空気が一気に和らいだ。



 午後。

 境内の木陰に座布団を並べ、僧たちが授業を始めた。


「午前は“己を見つめる”だった。午後は“世を見つめる”じゃ」

 豪善が言うと、子供たちは首をかしげた。


「世を見つめる?」

「どういうこと?」


 円真が微笑み、紙を広げる。

 そこには簡単な絵で「人が人を助ける」「人が自然に祈る」姿が描かれていた。


「世界はつながっています。人と人、人と自然、自然と精霊。

 それを忘れた時、戦も争いも生まれるのです」


 宗蓮が枝を拾い、砂に一つの円を描いた。

 円の中に点をいくつか打ち、線で結ぶ。


「己もまた、この中の一点にすぎぬ。

 だが、点は必ずつながっている。だからこそ、己の行いは必ず誰かに響く」


 子供たちは真剣な眼差しで聞き入り、やがて「なるほど」と小さくうなずいた。



 帰り道、子供たちは口々に今日の感想を語っていた。


「また来たい!」

「精進料理、もう一回食べたい!」

「……座禅はちょっとイヤ。でも、がんばる」


 ルーンとトットは顔を見合わせ、そっと笑った。

「……悪くない一日だったわね」

「うむ。あいつら、きっと強くなる」


 その背後で、豪善・円真・宗蓮が並んで見送っていた。

 宗蓮が低くつぶやく。

「……大将の頼みとはいえ、なかなか面白い子らじゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ