魔境国アリアンロッド学園編 外伝 その3「夜は居酒屋で」
課外学習を終えた子供たちが眠りについた頃、
リリスブルクの一角にある和風の居酒屋には、大人たちが集っていた。
灯籠の明かりに照らされた木造の引き戸を開けると、
香ばしい焼き鳥と煮込みの匂い、そして賑やかな笑い声が広がる。
「おう、こっちじゃ!」
豪善が手を振り、円真と宗蓮が席に着いていた。
木の卓を囲むと、湯気の立つ鍋と酒の徳利が並べられる。
店主はオートマタの手による調理担当、料理はどれも絶品だ。
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◆乾杯
「今日も一日おつかれさん」
宗蓮が杯を掲げると、三人の声が重なった。
「「「かんぱーい!」」」
ぐいっと喉に流し込む。
米の香りがふわりと広がり、体の芯まで温まる。
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◆会話
豪善:「子供らの顔を見てると、わしらの修行も無駄じゃなかったと思うのう」
円真:「座禅のときは静かにしていたが、あれは本当に心地よかったんだろう。目が澄んでいた」
宗蓮:「あの子ら、未来を担う者だ。力でなく“心”を磨く場所を持てたのは大きい」
三人の話は、やがて酒の勢いで和やかに転じる。
円真:「それにしても、この焼き鳥というやつは妙に旨いな」
豪善:「タレか塩か、選ぶ楽しみがあるとはな! わしはタレ派じゃ」
宗蓮:「いや、塩こそ至高よ」
「「「ははははは!」」」
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◆守護獣も
その足元では、普段は人型をとる守護獣が獣姿に戻り、
尻尾を揺らしながら酒の肴をつまみ食いしていた。
「こら、宗蓮! 勝手に食うでない!」
「ふん、酒の席に遠慮は不要じゃ」
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◆終盤
やがて卓上の徳利が空になり、
夜風が障子を揺らすころ。
豪善は杯を置いてぽつりと呟いた。
「……ここに来てよかった。わしら、もう二度と人前で笑う日はないと思っていたのだ」
円真も目を細め、宗蓮が静かにうなずく。
「過去がどうであれ、今がある。リリス様に、そしてこの国に感謝せねばな」
三人は再び杯を掲げ、夜はさらに更けていった。




