魔境国アリアンロッド・学園創設編 その2 初めての授業
翌朝。
学び舎の鐘が澄んだ音を響かせると、子供たちが次々と講堂へ集まってきた。
普段は森を駆け回っていた亜人の子、畑を手伝ってきた子、元奴隷の子も混じっている。皆、胸を高鳴らせながら木の扉を押し開いた。
「おはようございまーす!」
元気に声をそろえる子供たち。
最初の授業は 読み書き算術。
担当はシャルルとハルト。
板の前に立ったハルトが、緊張気味にチョークを握る。
「……では、今日から文字を学ぶ。これは“あ”だ」
白い粉で板に一文字。
子供たちの目が真剣に動きを追い、同じ形を板に写そうと必死になる。
「うわっ、むずかしい……」
「線が曲がっちゃった!」
「先生、これ“おたまじゃくし”に見える!」
笑いが起きる。ハルトは咳払いしつつ、穏やかに笑って訂正した。
一方シャルルは柔らかい声で「焦らず、一筆ずつで良い」と励ます。
次は 生活技術。
愛菜が前に出て、包丁を手に「今日は野菜を切る練習から」と言うと、子供たちはどよめいた。
「え、料理していいの!?」
「刃物使うの、ドキドキする!」
愛菜はおっかなびっくりの子供たちに、指を猫の形に曲げる「猫の手」を見せて回り、思わず“先生らしい”表情を見せた。
昼には 格闘術の時間。
東堂が中央の広場で腕を組み、にやりと笑う。
「いいか、今日はまず受け身だ。投げられても痛くねぇように、しっかり転べ!」
ごろん、ごろん、と子供たちが地面に転がる。
最初は痛がって泣く子もいたが、東堂が「よく見ろ」と模範を見せると歓声が上がった。
「先生、すげぇ! 忍者みたい!」
「ちがう、プロレスだ!」
どっと笑いが起き、自然と稽古の空気が和む。
午後の授業では、オートマタやゴーレムが助手として登場し、魔力の流れを視覚化した装置を使って「魔法基礎」の実演をサポート。
小さな子供が驚いて「わぁ、星が流れてるみたい!」と声を上げると、ゴーレムが不器用に頷き返し、場が一層和んだ。
最後に。
アリアは一日の終わりに姿を見せ、子供たちに短い言葉を残す。
「学ぶことは、剣よりも強い盾となる。今日を忘れず、明日もまた来てくれ」
夕陽の差す講堂に「はーい!」と声が響き渡った。




