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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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魔境国アリアンロッド ・リリス編その11 断片を掲げる会議


リリスたちは帰還の門を抜け、アリアンロッドの中央広場へと戻ってきた。


 待っていたのは――アリア、ルーン、グバ、シャルル、ハルト、ボリス、ガレンたち。

 夕刻の風が静かに吹き抜け、しかし広場の空気は張りつめていた。


 その緊張を破ったのは、リリスの手に光る結晶だった。淡く脈動する光を見た瞬間、誰もが息を呑む。


「……リリス、その光は?」

 アリアが一歩前に出る。


「記録の断片。――古き勇者と魔王が遺した、未来への手がかりです」


 リリスは結晶を高く掲げる。揺らめく光の中に、一瞬だけ英雄の影と邪神の影が交錯し、消えた。

 その刹那、時代の呼吸が蘇ったかのようだった。



会議の開始


 場を城の会議室へと移す。長机の上に置かれた結晶が、淡い光を放っている。


「……この断片が示すのは“契約”です。過去の勇者と魔王が互いを縛り合い、世界の均衡を保っていた証」

 リリスの声は澄んでいた。


「つまり、その均衡が破られたからこそ――今の混乱がある、ということか」

 シャルルが低く唸る。


 ハルトは腕を組み、静かに言葉を選んだ。

「もしこれが真実なら、我々が立ち入るべきは戦場ではない。“契約の再編”そのものだ。

 だが、敵はすでに大連合を築いている。戦火を避けるには……」


「我々が“名もなき者”として動くしかあるまい」

 ボリスが重々しく口を開いた。

「正体を伏せ、均衡を取り戻すための影となる。それが――アリアンロッドの務めだ」



アリアの決意


 アリアはゆっくりと立ち上がり、皆を見渡した。

「……私たちはすでに介入している。後戻りはできない。

 この断片が導くのが新たな均衡なら、私は剣を携え、その道を切り拓く」


 その言葉に、場の空気が引き締まる。


 リリスが静かに付け加えた。

「ただし、この結晶は一度きり。誰かが“契約の場”へと運び、起動させねばならない」


 自然と全員の視線がアリアへと集まる。

 だが彼女は首を振った。


「私ひとりではない。――これは、皆で背負うものだ。そのために、私たちはここにいる」



ルーンの声


 沈黙の中、長机の端に座っていたルーンが、静かに立ち上がった。


「……では、この断片に“名”を与えるべきではありませんか。

 名を持つことで、力は揺るぎない形となりましょう」


 グバが振り返る。

「名を……与える? ……まさか」


 ルーンはその視線を受けながら、結晶を手に取った。

 しばし瞑目し、唇に言葉を刻むように告げる。


「――《均衡の碑文エクイリブリア・レコード》」


 瞬間、結晶が強く輝き、白光が会議室を満たした。

 光は天井の紋章を照らし、壁の陰影を溶かしていく。

 まるで古き記憶そのものが、今ふたたび息を吹き返したかのようだった。


 光が収まるころ、扉がひとりでに開き、ルナが姿を見せる。

 その瞳には、白光を映したままの深い蒼が宿っていた。


「……ほう。均衡の碑文、か。なるほど――」

 歩み寄りながら、静かに呟く。

「ルナデウスブルクの地下にも、似たような“契約の残滓”が眠っているかもしれんな」


 その言葉に場がざわめいた。


「……まさか、ルナの領にも?」

 シャルルが思わず声を上げる。


 ハルトが軽く咳払いし、静かに言葉を継ぐ。

「アリアンロッドと同じく、魔族の地にも“忘れられた仕組み”があるなら、見逃すわけにはいかない。

 均衡というものは、どちらか片方では成り立たないんだ」


 ルナは彼に視線を送り、薄く微笑んだ。

「……俊傑の言うとおりだ。もしそうなら、いずれアリアと私――両方が鍵を握ることになる」


 誰もが黙り込む。

 机の上で、結晶が淡く脈打っていた。

 その光の拍に、ひとりアリアが目を閉じる。


(――均衡。争いの終わりではなく、次の夜明けの形。)


 彼女はそっと拳を握り、心の内で静かに告げた。


(ならば、私たちが――新たな均衡を見つけよう。)


 静寂の中、誰もが確信していた。


 この名が、アリアンロッドの次なる指針となることを。


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