魔境国アリアンロッド・リリスブルク編 その8 秘められし契約の間
光の門を抜けた瞬間、眩い輝きが視界を覆った。
足元の石畳は透き通るような青白い輝きを帯び、天井には星空のような文様が広がっている。まるで地下でありながら、夜空の中を歩いているかのようだった。
「……ここは……」
リリスが呟く。彼女の声すら、空間全体に反響して荘厳な音楽のように響いた。
中央には巨大な祭壇。
その上には封じられた二つの石棺が並び、その周囲を浮遊する光の鎖が取り囲んでいた。鎖には古代文字が刻まれ、淡く脈動している。
円真が目を凝らす。「これは……“契約の間”か。伝承でしか聞いたことのない、魂を縛る祭壇……」
「つまり、ここが試練の本丸ってわけか」
豪善が唸るように言い、法具棒を肩に担いだ。
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その時、祭壇の両脇から影が滲み出る。
黒い鎧を纏った二体の戦士。顔は兜で覆われ、紅い光の目だけが暗闇に浮かぶ。
片方は巨大な剣を、もう片方は鎖鎌を構えていた。
「番人……まだ続くのか」
リリスは剣を抜き、仲間に目配せをする。
守護獣の白狐が低く吠え、山犬が地を掻いて構えた。
豪善と円真は並び立ち、背に霊力をまとわせる。
「よし、ここを突破せん限り、真実には辿り着けぬ。リリス殿、後ろは任せて前へ進め!」
「承知しました!」
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剣の番人が斬りかかる。空気を裂く轟音。
リリスは太極拳の歩法を取り入れた柔らかな回避でその剣を滑らせ、逆に懐へ潜り込む。
短剣が鎧の継ぎ目に閃き、火花を散らした。
鎖鎌の番人は円真を狙う。鎌が唸り、霊符を絡め取ろうとする。
「甘い!」円真は符を爆ぜさせ、鎖を切り裂いた。霊炎が鎌を包み、番人を後退させる。
その間に豪善が棍を叩き込む。「どりゃあああっ!」
剣の番人が大きく仰け反った。
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しかし番人たちは倒れぬ。
鎖の紋様が光を増し、彼らの体を修復していく。
「無限再生か……!?」リリスの顔に焦りが走る。
円真が石棺に目をやり、はっと息を呑んだ。
「いや、違う……あの鎖だ! あれが番人に力を与えている!」
「なら……鎖を断てば!」
豪善が叫ぶ。
リリスがうなずき、仲間に指示を飛ばす。
「皆、番人を引きつけて! わたしが鎖を断ち切る!」
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守護獣たちが前に飛び出す。白狐が光の尾を広げ、番人の剣を受け流す。山犬が鎖鎌を噛み砕こうと跳ね上がる。
その隙に豪善と円真が符と棍で連撃を浴びせる。
リリスは宙を駆けるように走り、祭壇へと跳躍した。
「……これで!」
双短剣が閃き、光の鎖を断ち切る。
轟音と共に鎖が霧散し、番人たちが呻き声をあげて崩れ落ちた。
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祭壇が静まり返る。
二つの石棺の鎖も消え、ゆっくりと蓋が開き始めた。
中から現れたのは――眠りについた古代の影。
ひとりは白銀の鎧を纏った覇王の姿。
もうひとりは黒き衣を纏った魔人王の姿だった。
リリスは目を見開く。「これは……!」
覇王と魔人王の魂が、同時に瞼を開こうとしていた――。
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→ 次回「その9 甦りし覇王と魔人王」
いよいよリリス隊の試練の核心。覇王と魔人王の魂との対話、そして三つ巴の戦闘へ!




