表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

552/649

魔境国アリアンロッド・リリス領編 その1 揺らめく森と新しき符



 森の奥へと足を踏み入れた豪善と円真。昼なお薄暗い木立の間に、霧が漂いはじめる。

 彼らの肩には、普段は人の姿で付き従う守護獣が、今は獣の耳と尾を覗かせた姿で寄り添っていた。


「……霧じゃないな、これは幻だ」

 円真が立ち止まり、棒状の法具を握る。金属ではなく、古代の木を芯に魔石を嵌め込んだようなそれは、僧兵を思わせるが異世界仕様に強化されている。

 視界の端には、ありもしない分かれ道や幻の怪物の影が揺らめいていた。


「試されとるな。進む者を迷わせ、心折らせるための仕掛けや」

 豪善が吐き捨てる。彼は額に汗をにじませながらも、胸元から巻物のような束を取り出した。


 それは、村の工房で手に入れた「魔力を帯びる紙」だった。初めて手にしたとき、どこか懐かしい感触に心が揺さぶられた。――まるで、日本で修行の折に扱っていた和紙のように。


「この紙……試してみるか」

 豪善は素早く筆を走らせる。魔力をこめると、黒い墨が紙面にじわりと赤く光った。

 書かれたのは、火の字。


「――燃えよッ!」


 投げつけられた紙は宙で燃え上がり、幻影を焼き払いながら、潜んでいた獣影をもあぶり出した。

 それは獣と虫のあいだのような異形で、牙をむき襲いかかってきた。


「来たぞ! 本物や!」

「任せろ!」


 円真が棒を回転させ、地を叩く。衝撃が波紋となり、襲い来る影を押し返す。

 豪善は次々に紙を描き、火符・風符・結界符を生み出す。紙片が舞うたび、獣はひるみ、次第に後退していく。


「……効いた。ほんまに効いとるで!」

「豪善、これは新しい武器や。俺たちの道具になる」


 守護獣も目を細め、低くうなった。

「符は主らの魂とこの地の魔力が結びついた証……リリス様の加護もあるのでしょう」


 立ち込めていた霧が晴れると、奥に石造りの鳥居のような門影が浮かび上がる。そこからは、ただならぬ気配が滲み出していた。


「ここが……石門」

「まだ入口や。だが、試練の番人が出てくる気配がする」


 二人は互いにうなずき合う。

 そして、背後からかすかな足音。

 振り返ると――遅れてリリスが現れた。銀髪を揺らし、弓を手に。


「待たせたね。ここから先は……一緒に行かせてもらうよ」


 頼もしき仲間が加わり、いよいよ石門の試練が始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ