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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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とある銀行での午後 ― 第2話「膠着と駆け引き」



銀行の空気は重く、昼の日差しさえ鈍色に感じられた。

帳簿を渡せと叫んだリーダー・ラザルの指示のもと、五人の覆面がそれぞれ武器を構えている。

人質たちは床に押し付けられ、誰もが息を潜めていた。



「……外が騒がしい」

見張り役のミルコが窓の隙間から覗き、声を震わせた。

「衛兵が増えてる……! 囲まれてる!」


「黙れ」

ラザルが短く叱責する。その声音は冷静だった。

だがゴランが棍棒を振り回し、近くの商人の肩を叩く。

「動くなと言っただろうが!」

悲鳴が上がり、室内の緊張がさらに高まる。


若造のニコラは、汗まみれで震えていた。

「ラザル、本当に大丈夫なのか……俺、こんなの聞いてない……」

「口を閉じろ」ラザルの声は冷たい。

ミランが横から囁いた。

「落ち着け、ニコラ。深呼吸だ」


アリアは静かに彼らを見つめていた。

(呼吸が乱れる。乱拍が広がると、場全体が崩れる……)


床に伏せるふりをしながら、アリアは小声で囁いた。

「お前、吸う息と吐く息を合わせろ。――“いち、に”だ」


ニコラが目を瞬かせ、言われるままに吸って吐いた。

その肩の震えが、少しだけ落ち着く。

(……素直だな。まだ戻れる余地がある)



外から、衛兵隊長の声が響く。

「中の者たち! 帳簿と人質を無事に渡せば、罪は軽くする!」


ミルコが慌ててラザルに叫ぶ。

「どうする!? 外はもう突入する気だ!」

ラザルは無言で睨みつける。


アリアは周囲を見渡し、床に伏せている老女に視線を送った。

(長引けば人質が潰れる。……膠着を解く必要がある)


彼女は少しだけ顔を上げ、外の声に向かって通る声で言った。

「鐘は鳴らすな! 鐘が鳴れば、ここは血で満ちるぞ!」


ラザルが一瞬、眉を上げた。

「……騎士か?」

「通りすがりの旅人だ」アリアは真顔で返す。

「人の命を守りたいだけだ」


外が静まる。衛兵たちは、鐘を打とうとした手を止めたらしい。

アリアはさらに言った。

「水を。水を差し入れろ。人質が持たん」


するとミランがうなずいた。

「……悪くない。こっちだって死なせたいわけじゃない」

ゴランが怒鳴る。

「甘いこと言うな! 人質は人質だ!」

「黙れ、ゴラン」ラザルが一喝する。


わずかに、人質たちの表情が和らぐ。

子どもがすすり泣く声に、ニコラは顔を背けた。


(拍を合わせれば、混乱は沈む。……だが、まだ火種は残っている)

アリアは真顔のまま、人質たちを安心させるように視線で「いち、に」と示した。

床に伏せる者たちが、それに合わせて小さく呼吸を揃えていく。



夕刻が近づき、室内は膠着状態のまま時間が流れた。

人質と強盗、外の衛兵――すべての間で、奇妙に「ほどほど」の均衡が保たれていた。


だが、長くはもたない。

アリアは槍の柄にそっと指を添え、冷静に考えた。


(この均衡が崩れる時が、最大の危機だ……。その瞬間を、どう“ほどほど”で受け止めるか)


外の夕鐘が鳴ろうとする気配。

強盗五人と人質、そしてアリア。

町全体が「午後」の影に閉じ込められたまま、張り詰めた空気に沈んでいった。


(つづく)


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