魔境国アリアンロッド・リリスブルク編 その7 ゴーレム到来と朝の太極拳
翌朝。
まだ霧が残る広場に、人々の列が整っていた。
前列にはリリス、隣にアリア、その横にエリオットや僧侶たち。
そして後ろには子どもから老人まで、昨日決意を固めた村人たちが並んでいる。
「では……始めましょう!」
リリスの声とともに、全員が両腕を上げる。
――しゅっ……。
森の中に、ゆったりとした呼吸と動きが重なる。
「……太極拳ってやつか」
「あぁ、コレは台湾でやったヤツか…正直いってオレはこういうのは苦手だ…」
ガレンと東堂が腕を組みながら見守って呟く。
「なんかいいね。呼吸も整うし、みんな揃って動くと妙に気持ちいい」と…ミリーナは気に入ったようす
ヒーミッドは半信半疑で真似をして、途中でバランスを崩して転び、周囲から笑いが起きた。
「む、難しいではないか!」
「ほらヒーミッドさん、こうやって膝を抜いて……」
アリアが笑いながら手を添える。
リリスは胸の奥で小さく喜びを覚えていた。
かつてバラバラだった彼らが、今は一つの動きで心を揃えている。
太極拳はただの体操ではなく、村人たちを“ひとつにする儀式”だった。
――やがて。
地響きが森を渡り、広場に影が差した。
土を踏みしめる巨大な足音。
「な、なんだ!?」
「ま、まさか魔物か!?」
緊張が走ったが、リネオスが前に出て声を張り上げた。
「恐れることはありません! これが……“作業用ゴーレム”です!」
霧の中から現れたのは、三体の巨像。
土と石で作られたはずの体には、ところどころ金属の装甲が嵌め込まれ、瞳には青白い魔石が輝いている。
無骨でありながらも、どこか温かな雰囲気を持つ姿だった。
「おおおおお……!」
「本当に動いてる……」
「これが……私たちを助けてくれるのか」
村人たちは歓声を上げ、恐怖よりも驚きと期待で目を輝かせた。
ルーンが杖を掲げ、静かに言葉を放つ。
「これより、彼らはリリス殿のもとに仕える。名は……“レムシリーズ”。今日から皆の同胞である」
リリスは深く頷き、胸を張った。
「彼らは奴隷ではありません。先生であり、仲間です。共に学び、共に働き、共に暮らすのです」
ゴーレムたちはぎこちなくも手を胸に当て、一礼を返した。
その光景に、村人たちは思わず拍手を送る。
こうしてリリスブルクは、“太極拳で心を合わせる村”としての一歩を踏み出した。
毎朝の体操、そして新たな仲間“レムシリーズ”。
静かに、しかし確かに――村は動き出していた。




