表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

529/666

魔境国アリアンロッド・秘匿扉探索編 その8 魔王の血脈


――この大地の熱は、歓声で震える。

石畳が低く鳴動し、旗が狂ったようにはためき、円形闘技場の空は無数の吐息で白く曇っていた。

ルーンブルク大広場、魔王たちとアリアンロッドの公開試合――。



「前へ」

ルナが一歩、進んだ。

黒の上衣の袖口が微かに揺れ、足裏が石に吸い付く。風が止む。視線が集まる。

対面、竜騎士を従えた北の魔王――銀灰の巨影が、観客席の陰から歩み出た。


「……遅かったな」

声は岩肌のように低く、冷たい。

銀の瞳。鉄の面差し。

ヒルデリッヒ――北方を束ねる老魔王。さきの会議では一言も発さず静観していたその男が、今は正面からルナを射抜いている。

その眼差しに、血が騒いだ。懐かしさと、痛みと、誇りと、悔恨が絡まって胸の奥を灼く。


「父上」

言葉は短く、しかし確かだった。


「……その呼び方が、まだ口に残っているか」

ヒルデリッヒは鼻を鳴らす。「魔王とは、群れの先端に立つ牙だ。牙は鈍れば折れる。折れた牙は捨てられる」

「お前は牙を研いだか。あるいは――飾りをつけて、人に見せびらかすための玩具に堕したか」


羅刹丸が前のめりになりかけ、朱鬼丸がその袖をひっぱった。

俊傑は奥歯を噛み、言葉を飲み込む。

ルナはただ一礼した。

「研ぎは、戦場だけではありません。……生かすための刃も、あります」


ヒルデリッヒの口角が、わずかに歪む。

「ならば示せ。言葉ではなく、動きで」


鐘が鳴った。

観客が、叫んだ。



先鋒は、ガレンだった。

「よっしゃ、行くぜ!」

大地を蹴った瞬間、猛獣じみた躍動が床を走る。対面に出たのは、ゾロアルダ軍の将――全身を漆塗りの甲冑で包んだ巨漢の魔族。握る戦棍は人の胴ほどもある。


「砕け!」

棍が風を裂き、唸り、落雷のようにガレンの頭上に振り下ろされ――

空を打った。

踏み込み、半身、腰の回転。ガレンは一拍早く相手の懐へ潜り込み、左ローを膝の外に突き刺した。


バチン――!

乾いた音に、観客席の魔族が一斉にのけぞる。

巨漢の足が、わずかに流れた。もう一発、インロー。

バチィン! 膝が笑い、体重が逃げる。

「ッ……!? なんだ、その……曲がる痛みは……っ!」

「足が止まったら終わりだぜ」

間合いを嫌がって振り回された棍棒を肩でいなし、体を密着。

内股――からの、腰の回転を軸にした刈り倒し。甲冑ごと地に叩きつける。


「極める」

ガレンの右が相手の上腕を取り、骨と関節の無言を聞く。

肘の角度が悲鳴に変わる前に、将は戦棍を取り落とした。

降参の手が宙で踊り、審判が慌てて割って入る。

観客――静寂。遅れて爆ぜるどよめき。


「い、一撃で……脚を……!」

「いや、斬っても焼いてもいない――蹴っただけだぞ!?」

魔族兵のざわめきの中、愛菜が両手を口に当てて弾けた。

「出たー! ローキック講座!!」



次鋒――東堂。

「オレも一本ね」

東堂の前に立ちはだかったのは、竜鱗を刻む槍騎士。槍先が蛇のように唸る。

「貫く!」

素直だ、と東堂は思う。

最短、最速、一直線。良い槍だ。だが――

「直線は、ズレる」

わずかに外へ身をずらし、手首で槍柄を払う。

空いた胴へカウンターの右、相手がたわんだ腰ごと抱え上げて――

ズドン、豪快なダブルレッグからのテイクダウン。

「ひ――」

背中が石に叩きつけられ、肺の空気が悲鳴になる。

東堂は流れるように上体を跨ぎ、相手の首の後ろに腕を回した。

リアネイキッド・チョーク。

竜鱗と称された首筋が、みるみるうちに色を失っていく。


「……っは、息が、吸え……」

「タップ」

虚空で爪がカン、と床石を掻いた。審判が割って入る。

東堂はすっと離れ、相手を起こし、軽く頭を下げた。

「いい槍でした」


「ど、どうなっているんだ……槍も鱗も意味をなしていない……!」

「魔法でも術でもない。……技だ」

観客席の陰で、以蔵が口の端を上げる。

「土佐の剣でも、よう似たもんがあるき。勢いいうんは、いなされると反って己を損なうがじゃ」



剣の風が流れる。

アリアの番だ。

対面に出てきたのは、ラグネルの側近――四肢に刃を宿した魔族剣士。

「速さなら誰にも劣らぬ」

静かな声。次の瞬間、その声は残像になっていた。


――速い。

視界の縁に残光が弾け、刃が斜めから、下から、背から、連続して飛び込んでくる。

人の目で追える速さではない。

だが、アリアは見えている。

《空間把握》が描く立体の線に、敵の刃が触れる瞬間が音になる。

右足半歩、肩の回転、軸の移動――

刃はそこに来る。

剣は、そこに在る。


打ち払うのではない。触れ、流し、落とす。

相手の運動量が、アリアの小さな円で解体されていく。

「なっ……!」

刃が滑る。手首の角度が崩れる。

そこへ――

コツ。柄頭で相手の手甲を叩く。

「――ッ」

わずかな痺れが握りをほどき、刃が石に転げた。

アリアの剣先が、相手の喉元にふわりと触れる。

「これで、終いだ」


静かに納刀。

歓声が一拍遅れて爆ぜた。

「み、見えなかった……」「いや、見えていた……あの女の剣は見ていた……!」

「なぜだ。斬り結びではない。流れて、止まって、触れて……勝った……!」


セレスが小さく微笑む。

「アリアは剣に“理”を宿したのよ。斬ることが目的じゃない。斬らなくて済むための剣」

ティアが頬をふくらませた。「わたしの出番が……!」



戦列の後方、ルナは静かに呼吸を整えていた。

前へ出る準備は、いつでもできている――そう告げる身体の底で、心だけが波立っている。

父の視線が、ずっと背中に刺さっているのを知っているからだ。


「ルナ様」

羅刹丸が囁く。「あいつらは“強さ”しか知らねえ。強さで黙らせる手もある。だが、おまえさんが見せたいのは“別の強さ”だろ」


「……うん」

「俊傑」

呼べば、青年は「ここに」と短く応えた。

黒目がちの瞳が、明るい。

「大丈夫。俺は、ルナの背中のまま行く。何言われても」


「ありがとう」

胸の震えが、笑いに変わった。

ルナは一歩、前へ出る。



「次は――わたしだ」

ルナがそう告げると、魔王側からざわめきが走る。

「娘が出るのか」「笑わせる」

「では、お相手は私が」

ゆったりと歩み出たのは、豊穣の魔王エリュシア。

翠髪が光を受けて波打つ。

「争いは好まないけれど、言葉だけでは届かないこともあるわね」


「感謝する」

二人は礼を取り、間合いに入る。

合図はない。風が合図だ。

エリュシアの指が描く緑の陣が、ルナの足元で芽吹いた――蔦が絡み、地を掴もうとする。

その瞬間、ルナの重心がふっと消えた。

足裏で円が回る。

蔦が絡んだ「はず」の足首が、そこから半寸ずれている。

次の一歩が、蔦の束をまるごと空へ運び、絡みは風にほどけた。


「……面白い」

エリュシアが笑って、魔弾を二連。

ルナは受けない。払わない。

指先で触れ、明後日の方角へ“行かせる”。

弾は空を往く。観客がどよめく。

「何をした」「力の線が……逸れた……?」


ルナの掌が、エリュシアの肩口へふわりと添えられた。

重い力はない。ただ、流れが止まる。

膝が折れ、エリュシアの視界がわずかに沈む。

そこへ、ルナの身体がひと呼吸で回り込み――

四方投げ。

大地が優しく、しかし確かに魔王の身体を受け止める。


「……参ったわ」

笑って、エリュシアは手を挙げた。

「あなたの“道”は、見えた気がする」


歓声。驚嘆。否定の唸りは、もう少しばかり少ない。

観客席の奥、ヒルデリッヒの瞳が微かに細められた。



魔王側も黙っていない。

「軍で叩くまで」

ゾロアルダの号令一下、召喚門が開く。

黒鉄のゴーレムが数十、闘技場へ躍り出た。胸部に刻まれた術式が赤く脈動し、腕部が剣に変形する。


「――後衛、上げ!」

アリアが振り返るより早く、澄んだ合成音が闘技場全域へ響いた。

『全機、オールレンジ展開。支援人格、待機』

オートマタの背から光子ユニットが咲き、空中に白い花が散った。

花弁のひとつひとつが、極小の飛翔砲台だ。

軌道が描くのは螺旋、軌跡が組むのは綾。

「封じなさい」

ルナの低い指示に、砲弾は殺さずの網を編む。

ゴーレムの関節を打ち、術式の回路をわずかに乱し、膝を落とさせ、剣を投げさせる。

破壊はしない。無力化だけを、美しく完遂する。


「馬鹿な……我が軍の鉄陣が――」

ゾロアルダのこめかみが引き攣る。

「破却していない……殺していない……! 術を断ち、動きを封じ……!」


「――負かすことと、殺すことを、私は混同しない」

ルナの声が静かに響き、観客席に波紋を走らせた。



「面白い。では、これならどうだ」

砂漠の魔王ヴァルクが、手をひらりと振る。

巨体の魔獣が吼え、背から黒い矢の雨が降った――無数のドローンの群れだ。

魔術と工巧の合体。

観客が悲鳴を上げるより早く、闘技場の四辺に立てた黒塔が一斉に唸った。

ネオン、クルネオ、アルネオラ――三体のオートマタが接続し、空間に不可視の格子を展開。

矢は格子面に当たり、角度そのまま**“持ち主へ返る”**。


「自分の矢が――!」

「戻ってくる――!?」

蜂の巣になりかけた魔獣の上を、愛菜の声がぶち抜いた。

「はいはい! 実況の時間です! 今のは“反射壁”という名の嫌がらせです!!」

「やめろ」アリアが額を押さえる。「言い方」



戦は熱し、しかし誰も倒れない。

折る、砕く、ではなく――止める、流す、置く。

闘技場に「殺意」だけが見当たらない光景に、魔王側の老臣たちが呆然とする。


「……茶番だ」

ただ一人、ゾロアルダが吐き捨てた。「戦は殺し合いだ。生かすなど偽善に過ぎん。殺せ」

「なら、お前が来い」

ガレンが顎で示す。

「ここまで来て“殺すしか知らない”を披露するのか。……面白れえじゃねえか」


ミシ、と石が鳴った。ゾロアルダの後背、黒甲冑の側近が一歩前に出る。

「陛下に代わり、この身が」

背中から伸びるのは刃の束――魔王鍛造の六刀流。

「整えます」

低い声。

空気が刃になった。

踏み込み――六閃。


「腕はいい」

刃が東堂の鼻先を掠めた瞬間、ルナの掌が男の肩甲に音もなく置かれる。

“流れ”が止まり、後ろ足が死ぬ。

そこへ、東堂のロー。

バチン――!

「――ッ!」

次の一歩が出ない。膝が笑う。

二撃目がふくらはぎを裂き、三撃目で踵が床から離れない。

東堂は肩で息をする側近の懐に入り、タックル。

ズドン。

サイド、そしてマウント。

「苦しい、は、ずだ」

リアネイキッド・チョーク。

男の刃束が床に散り、審判が叫ぶより早く――

「タップ」

床石を叩く音が、観客の胸骨を叩いた。


沈黙。

やがて四方から、怒号とも歓声ともつかない咆哮が立ち上がる。

それは敗北の怒りではなかった。

知らぬ論理に叩かれて、目が覚める痛み――文化衝撃の叫びだ。



「……まだ“見せて”はいないようだな」

ヒルデリッヒが初めて立った。巨躯が影を落とし、闘技場の風が低く唸る。

ルナは、静かに向き直る。

「父上」


「娘よ。お前は刃を抑え、血を収める。……立派だ。だが、それで群れは守れるか」

銀の瞳が、初めて熱を帯びた。

「老いた私が去ったあと、この北を、魔族を、人も……お前は守り切れるのか」


返す言葉は、ずっと前から胸の中で温めてきた。

しかし、それを言葉にするより先に――

ルナは動きで答えた。


一歩。

二歩。

足裏で円を描く。

掌が石に、背に、空に置かれる。

ヒルデリッヒの気配が、“行きたがっている方角”を読む。

そこへ誘う。

掌が衣へ、肩口へ、背へ――ふっと触れるたびに、巨躯の流れが変わる。

力の矢印を無理に折らない。

そのまま、ゆるやかに円へ乗せる。

円は落ちる。

巨躯が、石へ優しく横たわる。


「――っ」

観客が息を呑む。

ヒルデリッヒの両肩が石に触れ、銀の瞳が真上の空を映す。

次いで彼は、低く笑った。

「……そうか。守るとは、こういうことか」


「守るために、折らせる。壊さず、止める。立てる者は、立たせる」

ルナは膝を折り、父の目を見た。

「でも、もし折れない刃が来たら――わたしは折る。迷いなく」


沈黙が落ちた。

やがて老魔王はゆっくりと立ち上がり、娘の肩に大きな手を置いた。

その掌は固く、温かかった。

「……お前が、私の娘であることを、誇りに思う」


歓声が、轟いた。

ラグネルが舌打ちをし、ヴァルクが瞑目して肩をすくめる。

エリュシアは微笑み、ゾロアルダは拳を握って黙った。



「――ここまで」

アリアが剣を収め、闘技場の中央に歩み出る。

「示すべきものは示した。殺すためではなく、生かすための強さ。

 それが、わたしたち――アリアンロッドの道だ」


魔王たちは互いに顔を見合わせ、わずかな時間ののち、それぞれ頷いた。

「認めよう」「視座が変わった」「続きは酒席でも良いだろう」

「……ふん」ゾロアルダだけが踵を返した。「戦はまだ終わらぬ。覚えておけ」

その背を、ルナは追わなかった。追うべき時は、また来る。今は――結んだ手を確かめる時だ。


「終宴を告げる前に」

ヒルデリッヒが声を張った。「この場に集った者すべてに告ぐ。

 今日、我らは“もう一つの強さ”を見た。

 この地にしばし逗留し、学ぶことを許されたい」


「アリア殿――」

別の魔王が、堪えきれぬ笑顔で手を挙げる。

「滞在の許可を……! ワシはこの味に惚れた!! まだ口にも入れておらぬのに、香りだけでわかるのだ! 旨いに決まっておる!!」

「おい、まだ宴は始まってないぞ」アリアが額に手を当てる。

観客席のボリスが酒樽を抱え、嬉々として手を振った。

「なら開けりゃええがよ! 今だ!」


愛菜が両手を広げて叫ぶ。

「はい!! 試合はここまで――ここからは“文化戦カルチャー・ウォー”です!!」


笑いが、涙とともに溢れた。

闘技場に、殺意の匂いはない。

あるのは、揺らいで、ほどけて、繋がり直す気配だけだ。



夜が落ちる。

屋台の灯りが並び、香りが通りを満たす。

明石焼きがふるふると出汁に泳ぎ、ラーメンの湯気が立ちのぼる。焼き鳥は塩もタレも山のように。

魔王の側近が恐る恐るひと口――次の瞬間、目を見開いて両手で椀を抱きしめる。

「……このふわふわは反則だろう」「麺の魔術だ……」「焼いた鳥が……なぜ、こんなにも……」


「……帰りたくない」

不意に、誰かが言って、皆が笑った。

「帰りたくない!!」今度は大声で。

ヒルデリッヒが苦笑し、ルナが肩をすくめる。

「滞在は歓迎します。……ただし、働いてくださいね?」


「働く!? 魔王が!?」

「屋台の手伝いでも、皿洗いでも。文化は、みんなで回すものですから」

エリュシアがくすりと笑い、ヴァルクが肩を震わせる。

ゾロアルダの背だけが、遠く闇に消えていった。


俊傑が、ルナの隣に腰を下ろした。

「……すげぇ夜だな」

「うん」

「さっきの、父上の顔。見た?」

「見た」

「誇ってた」

「――うん」

言葉の最後は、ほとんど息だった。

肩が、少しだけ震えて、すぐに静かになった。


遠く、以蔵が杯を掲げ、土佐弁で上機嫌に何かをがなっている。

アリアはボリスと厨房に入り、明石焼きの返しに挑んでセレスに手ほどきされている。

オートマタは屋台の列の端で、子どもたちに串の受け渡し手順を教わっている。


「……俊傑(ジュンジエ)

「ん」

「ありがとう」

「なんで」

「ここまで一緒に来てくれて」

俊傑ジュンジエは答えず、代わりに屋台から二つ、湯気の立つ椀を受け取った。

「……まずは、腹ごしらえ」

「うん」


スープをすする音が、夜の星に届くほど清らかに響いた。



夜半。

広場の片隅に、まだ火の残る鍋が一つ。

ルナはその火を見つめていた。

不意に背の気配――

振り向けば、ヒルデリッヒが立っている。

さっきより、ずっと柔らかい顔で。


「……良い夜だ」

「はい」

「私は、戦うことしか教えられなかった。……すまなかったな」

「いいえ。父上が戦い方を教えてくれたから、私は戦わない方法を学べました」


沈黙。

やがて、二人は並んで座り、火を見た。

「明日からは、学ぶ。私もだ」

「教えますよ。合気でも、太極でも。皿洗いでも」

「ふ……魔王の手が皿にふれる日が来るとはな」


ふたりの笑いが静かに混ざる。

火は小さくなり、夜は深くなる。

遠く、音楽の練習をする誰かの鼻歌が聞こえた。

幸福の花は、広場の端で淡く光り、プラチナフロッグの池からはかすかな水音。

この国の明日は、今日よりも少し、柔らかい。


――そして、その明日の向こうに。

闇の中で拳を握りしめる影が、まだ確かに息をしている。

ゾロアルダ。

力だけを信じ、殺しこそ正義だと叫ぶ男。

彼が去り際に吐いた一言――「戦は終わらぬ」――は、夜風の中で何度も反芻され、やがて遠くの空へ消えていった。


だが、ルナは知っている。

戦は、終わらせるためにある。

終わらせるために、始めたのだ。

アリアと、仲間と、父と――そして、この国と共に。


火が、最後の火花を打った。

ルナは立ち上がり、父に小さく会釈して、広場の灯の方へ戻っていった。

笑い声が、彼女を迎える。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ