魔境国アリアンロッド・秘匿扉探索編 その7 魔王会議決裂 ―闘技の幕開け―
ルーンブルクの大広場。
幾百という旗が翻り、観客席に詰めかけた民衆の熱気が夜気を押し上げていた。
石造りの円形闘技場には、魔王たちが続々と降り立つ。
それぞれが黒々とした威圧を放ち、護衛の魔族兵を従えている。
「……始まるな」
アリアは剣を肩に担ぎ、深く息を吐いた。
彼女の隣にはガレンがいて、拳を鳴らしている。
「この空気、悪くねぇな。燃えるぜ」
「俺も楽しみだ」
東堂はリングの床を足で叩き、笑った。
「中世ファンタジーの魔王たちが相手か。まるでゲームみたいだ」
その言葉に、観客席の一角で見ていた愛菜が思わず吹き出す。
「ちょ、ほんとに“天下一武道会”じゃん!」
⸻
魔王側の威圧
「ふん、人間が混ざるのか」
冷たい声が響いた。
声の主はノール魔王ヒルデリッヒ。銀灰の甲冑をまとい、竜騎士を従えている。
「退屈しのぎにはちょうどいい」
「無論、我らも引かぬ」
漆黒の衣を翻したのはザルド共和国の魔王ラグネル。
「力こそ正義。それを証明するために、ここへ来た」
それぞれが名乗りを上げるたびに、観客は震え、熱が高まっていく。
⸻
ルナの宣言
ルナは一歩前に出た。
その背後に羅刹丸と朱鬼丸が控え、冷たい眼差しで周囲をにらむ。
「ならば、ここで決めましょう。
誰が、この大地を導くにふさわしいかを!」
会場が大きく揺れ、観客の歓声が轟く。
だが魔王たちは口々に嘲笑を漏らした。
「ぬるい理想だ」
「お前ごときが導くなど、笑わせる」
ルナの拳が小さく震える。
そのとき――
「ルナ」
背中越しにアリアが声をかけた。
「お前一人じゃない。私たちもいる」
ルナは振り返り、仲間の笑顔に目を見張った。
その視線の先には、ガレン、東堂、そしてフル装備で整列したオートマタ勢。
⸻
オートマタ勢の登場
「全機展開!」
指令とともに、光学シールドを纏った十数機のオートマタが闘技場へ舞い降りる。
黒鉄の装甲は魔術紋様で輝き、背に背負うスラスターが火花を散らす。
「な、なに……あれは……!?」
魔王側の兵士たちはどよめき、竜騎士でさえ竦みを隠せない。
「く……化け物か……!」
「違う」
アリアが静かに剣を構えた。
「彼らは仲間だ。共に未来を築く同志だ!」
⸻
開戦の号令
審判役を買って出た古参の魔族長老が、震える声で叫ぶ。
「それでは……闘技試合、開始――!!」
鐘の音が鳴り響き、闘技場の空気が一変する。
魔王たちが一斉に魔力を放ち、竜の咆哮が重なる。
「おらぁああ!!」
ガレンが真っ先に飛び出した。
巨腕が唸り、地面を砕く。
「いくぞ!」
東堂は魔族の槍兵を掴み、柔術の技で床に叩きつける。
観客が悲鳴と歓声を同時に上げる。
その後ろで――。
「展開、オールレンジ」
オートマタが声を重ね、背の装置から光弾が浮遊し始めた。
「な、なに……!? 武器が勝手に飛んで……!」
魔王軍は愕然とし、初めての“近代兵装”に戦慄する。
⸻
ルナの父との邂逅(次回へ続く)
混戦のさなか。
観客席の奥から視線を感じ、ルナははっと振り向く。
そこにいたのは、蒼銀の髪を後ろに束ねた男。
鋭い眼差しが彼女を射抜き――そして、確かに血の繋がりを告げていた。
「……父、上……」
心臓が跳ね、視界が揺れる。
だが戦いは止まらない。
次の瞬間、魔王の魔弾が飛び込み、闘技場が閃光に包まれる――。




