魔境国アリアンロッド・秘匿扉探索編 幕間:武士道と騎士道の夜話
夜のルーンブルグ。
国民たちは次々と灯りを落とし、子どもも亜人も眠りにつき、街は深い静寂に包まれようとしていた。
——ただ一箇所、まだ明かりの絶えぬ部屋がある。
冒険者ギルド兼酒場、その奥座敷。
そこではアリア、セレスティア、岡田以蔵、そして乱入してきたボリスが、酒と肴を囲んでいた。
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「……それにしても、お主の着物。東洋の戦装束か」
セレスが盃を揺らしながら、アリアの身なりへと視線をやる。
「ええ。合気や北辰一刀流を取り入れるうちに、この方が馴染むようになったのだ」
アリアはすこし照れくさそうに答える。
「フフ。騎士道の鎧とはまるで異なる。私の頃は——」
「いや待てや。武士の女の装束言うたらのう……」
以蔵がすかさず口をはさみ、着物の裾を指でつまみながら説明を始める。
「華美じゃのうて実戦用。動きやすさこそが命ぜよ。そもそも女用の晴れ着言うんは……」
「そうそう、わしも見たことあるぞ!」
ボリスが割り込み、鼻を赤くしながら豪快に笑う。
「戦場に出る女の剣士は、飾りよりも心構えじゃとな!」
アリアは目を丸くし、思わず笑みをこぼす。
セレスは静かに頷きつつ、「西洋の騎士も、心根は同じだ。形式ではなく、心が守るものを決める」と杯をあおった。
——武士道と騎士道。
異なる文化が同じ卓に並び、酒の熱で少しずつ溶け合っていく。
やがて話題は以蔵の幕末回想へ。
土佐勤王党の志士たちの姿を語り始めると、アリアは瞳をきらきらと輝かせ、セレスでさえ興味深げに聞き入っていた。
「なるほど……剣に生き、国に殉ずる。騎士の誓いとも通じるものがある」
「そうじゃろう!」
以蔵は酒気を帯びた声で胸を張り、アリアは深く頷いた。
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その時だった。
窓の外が、 パァーーーッ と白金色に輝いた。
まるで夜を押し返すような光。
酒を酌み交わす四人は一瞬、盃を止めた。
「……なんじゃ……?」
「光……?」
「……まさか……」
外の街はすでに寝静まっている。
だが、その夢の中へ、幸福の花とプラチナフロッグが生み出した奇跡の輝きが、じんわりと染み込んでいくのだった。
四人はしばらく黙り込んだが、やがて以蔵が盃を掲げて笑った。
「ま、光るもんは縁起がええ。飲み直しじゃ!」
「ふふ、そうだな」
セレスが応じ、アリアも「うん……」と少し気になりながらも盃を合わせた。
ボリスが豪快に「今夜は宴じゃーっ!」と叫び、部屋は再び賑やかさを取り戻す。
——だが、この奇跡の光が、翌日以降アリアンロッドのすべてを大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。




