奇跡連鎖のはじまり
ルーンは両手で幸福の花をそっと抱え、青白い光に包まれながら一歩ずつ進んだ。
静寂を破ることを恐れるように、仲間たちは息をひそめて見守っている。
プラチナフロッグは黄金の瞳を細め、まるで待っていたかのように喉を震わせた。
ルーンはその姿に小さくうなずき、低く囁いた。
「——ここに、眠っていたものを託すよ」
花をそっと置いた瞬間。
——ぱあああっ。
光が爆ぜ、フロッグの体から虹色の波紋が広がった。
暖かさと清浄さを同時に帯びたその光は、瞬く間にアリアンロッド全域へと駆け巡っていく。
仲間たちは思わず目を覆い、けれど瞼を閉じてもなお、その輝きは心臓を震わせるように届いてきた。
「……な、なんだ、これは……!」
「体の奥から……力が湧いてくる……!」
やがてその輝きは三つの奇跡へと姿を変えていく——。
奇跡の第一段階:癒やし
光がまず触れたのは、人々の身体だった。
疲れ切った筋肉がほどけ、古い傷跡すら柔らかく溶けるように癒えていく。
「お、おい……! 腕の傷が……消えてる……!」
「ずっと咳をしていたのに、胸が……楽に……!」
兵士も子どもも、年老いた者も皆、光に包まれて安らぎの吐息を漏らした。
まるで母の胸に抱かれたような温もりが、心の奥にまで染み渡っていく。
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奇跡の第二段階:大地の祝福
次に光は、大地そのものへと染み込んだ。
荒れた畑から芽が一斉に伸び、森の樹々が若返るように青々と繁った。
花々は一夜にして満開を迎え、川の水は澄みきって魚影が躍る。
「作物が……育っていく! こんな早さ、あり得ない!」
「森が……息をしてる……!」
アリアは目を細め、静かにその光景を見つめた。
「これが……幸福の花とフロッグの力……」
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奇跡の第三段階:進化
そして最後に——光は人々そのものを変えた。
ゴブリンの耳が少し丸みを帯び、人のような顔立ちに近づく。
コボルトたちは背筋を伸ばし、瞳に理知の光を宿した。
獣人はよりしなやかに、サキュバスは気品を増し、エルフやヴァンパイアも格を高める。
「……わ、私たちの姿が……!」
「力が、あふれて……止まらない……!」
誰もが新たな力を宿し、“アリアンロッドの民”として一段階上の存在へ進化していた。
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ルーンは膝をつき、胸に手を当てた。
「……成功した。けど、これはもう……僕の力じゃない。
花とフロッグが、この国を選んでくれたんだ」
アリアは剣を膝に立て、静かにうなずく。
「皆がここで生きるために……神々が与えた奇跡、ということか」
光はやがて収束し、夜空を照らす柔らかな輝きだけを残した。
——その夜、アリアンロッドは新たな時代へと踏み出したのだった。




