英雄の墓② 三つ巴の戦い
蒼と紅の光が交錯する墓の間。
勇者ユリエと魔王ムウ、その両者の霊が今まさに復活しようとしていた。
「資格を示せ」
蒼剣を掲げるユリエの声は澄んでいるが、冷徹でもあった。
「余を縛れる力があるか、見せてみよ」
紅魔剣を振り下ろすムウの笑みは猛火のように揺らめいた。
二人の間に立ち、アリアは深く息を吸い込む。
そして仲間を背に庇いながら、胸を張って名を告げた。
「私はアリア・ディラ・ハイデンリッテ=アリアンロッド。
かつてはサンマリノ男爵家の娘、今は魔境国アリアンロッドの騎士として、
民と仲間の未来を背負う者だ!」
その名乗りに、一瞬ユリエの目が揺れた。
ムウも紅の瞳を細め、不敵な笑みを深める。
「……面白い。名と共に生きる者よ」
「ならば試そう、アリアンロッドの女騎士!」
蒼と紅の剣閃が同時に振るわれた。
アリアは抜刀して受け止める。衝撃が床を砕き、砂塵が舞い上がる。
背後で以蔵が「ぬおっ!」と笑い、刀を抜き放つ。
「おもろいがや! 勇者も魔王も、まとめて遊んでやるぜよ!」
エリオットは冷徹に印を結び、無数のアンデッドを召喚する。
「死者を束ねる者……僕の力が通じるか、確かめてやる」
墓の間は三つ巴の戦場と化した。
ユリエの蒼剣がアンデッドを斬り裂き、光が霧散する。
ムウの紅魔剣が大地を裂き、炎の奔流が襲いかかる。
その狭間をアリアと以蔵が駆け抜け、剣と刀が火花を散らした。
「速い……!」
ユリエの目が一瞬見開かれる。
「剣筋が……まるで——」
「ほう……お主、竜馬を思い出すのう」
以蔵が叫びながら刀を振るい、ユリエに迫る。
「フッ、かつての勇者も今は霊よ。
ならば我が紅蓮に縛られてみせろ!」
ムウが紅魔法を放ち、蒼と紅が激突する。
衝撃で壁画が軋み、崩れ落ちる石片の中、アリアは立ち続けた。
「やめろ! 互いを滅ぼすだけだ!」
だが二人は止まらない。
蒼と紅が交差し、アンデッドが崩れ、以蔵も押し返される。
その時——
アリアの胸元で、光が脈打った。
幸福の花の蕾から分けられた光が、彼女の心臓と共鳴する。
「……っ!」
アリアの視界が澄み、時間が一瞬遅く感じられた。
——空間把握。思考加速。
進化の力が、今ここで最大限に発揮される。
彼女は踏み込み、蒼剣と紅魔剣の間に割って入った。
「私はお前たちを倒しに来たのではない!
未来を共に紡ぐために来たんだ!」
刃がぶつかるはずの瞬間、光が二人の霊を包んだ。
蒼と紅が震え、やがて静かに収束する。
ユリエが息を吐き、剣を下ろす。
「……なるほど。己の名に誇りを持ち、仲間を背負う者か」
ムウも紅の瞳を細め、嗤うのをやめた。
「面白い……ならば余も従おう。この世に未だ、余を縛れる力があったのだと認めよう」
二人の霊はゆっくりとアリアとエリオットの前に跪いた。
「アリア・ディラ・ハイデンリッテ=アリアンロッドよ。
そして死者を束ねる男、エリオットよ。
我らを受け入れるならば、共に歩もう」
アリアは剣を収め、真剣に頷いた。
「もちろんだ。あなたたちの力、未来のために貸してほしい」
エリオットも冷静に言葉を継ぐ。
「……君たちは、これからは僕の軍勢の一部になる。
けれど死者としてではなく——仲間としてな」
ユリエとムウは同時に笑った。
蒼と紅の光が解け、二人は新たな姿へと進化していく。
——勇者ユリエ・ネオ。
——魔王ムウ・アルデリヒト・ルーロリッテ・ザラヴァーン・アリアンロッド。
その名を得た二人は、完全にアリアンロッドの一員となったのだった。




