忘れられし研究室④ 古代武具の封印
培養槽の奥、さらに重厚な扉がひとりでに開いた。
白銀の光が流れ込み、仲間たちは思わず目を細める。
そこは祭壇のような円形の間だった。
壁一面には古代文字が刻まれ、中央には二つの台座。
片方には澄んだ青白い光を放つ《蒼剣》。
もう片方には黒炎を宿した《紅魔剣》。
アリアは思わず足を止めた。
「……これは……」
エリオットの瞳が赤く輝き、微かに震える。
「聞こえる……“呼ぶ声”だ。勇者と……魔王の記憶……!」
ネオンが前に進み、光を走らせる。
『解析開始——対象は《双武具》。適合条件:二つの魂を束ねる存在。』
アルネオラが続けた。
『単独の人間では解放できない。二つの対立する意志を受け継ぐ者にのみ開かれる』
その時、封印の陣が脈打ち、幻影のような声が響いた。
『我が名はユリエ。蒼剣の守護者……』
『我はムウ。紅魔剣を携える者……』
二つの声が重なり、部屋に低く反響した。
アリアは息を呑み、剣を握りしめる。
「勇者と……魔王……!」
だが、幻影は剣を抜こうとしたアリアの手を拒むかのように光を放った。
「まだだ。汝らは条件を満たしていない。
二つの意志を繋ぐ者を伴わぬ限り、この封は解かれぬ」
光が収束し、再び静寂が訪れた。
封印は閉ざされたまま。
以蔵が刀を納め、低く唸る。
「ちいとばあ、骨のある相手が待っちゅうようじゃのう」
ルネオスは静かに培養槽の方角を見つめ、震える声で言った。
「彼らも……きっと“鍵”の一部。眠れる同胞と、勇者と、魔王……
すべてが繋がっている……!」
アリアはゆっくりと頷き、仲間に振り返った。
「ならば必ず、この扉を開こう。勇者と魔王、その両方と向き合うために」
扉が重く閉ざされ、最後に声が残響する。
『来たれ、継ぐべき者たちよ……次の地にて、汝らを待つ』
石の響きが止むと同時に、仲間たちの心には確かな緊張と高揚が刻まれていた。
——忘れられし研究室、その核心はまだ奥深くに眠っている。




