魔境国アリアンロッド・秘匿扉探索編 その15:迫る影
森を渡る風が、不自然に止んだ。
アリアンロッドの外周を巡回していた小さな影――ルーンのティムたちが、同時に耳を立てる。
灰色の狼型、翼を持つ小竜、影の中を渡る鼠。そのすべてが鼻をひくつかせ、前方の“異質”を嗅ぎ取った。
『……くる。人間。数は二十余り。けれど、歩みに迷いがない』
狼が低く唸る。
『南東から。導かれるように山の折れを越えて……まっすぐ、ここへ』
翼竜が囁いた。
鼠が影の中で小さな声を残す。『合図を。主へ、町へ』
瞬く間に、ルーンブルグへ伝令の光が走った。
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「……なんだと?」
町の防衛塔で報告を受けたオリビエは、驚きよりも早く剣に手をかけた。
隣でヨハネスが大剣を担ぎ上げ、口を結ぶ。
マキシたち子供組は訓練を中断し、駆け寄った新兵に短く指示を出す。
「全員落ち着け! 弓兵は壁へ! 治癒士は後方に!」
リマは盾を構え、ヨーデルが魔法陣を浮かべる。
「……この数で襲う気か。それとも、ただの斥候か」
オリビエは白髪を揺らし、低く呟いた。
「どちらにせよ、迎え撃たねばなるまい」
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一方その頃――秘匿扉からの帰路を急ぐアリア隊。
報を受けたアリアの顔は険しい。
「外周から、不明の一団が接近中……。まっすぐこちらに向かっている」
「ふむ。偶然ではあるまいな」以蔵が低く言う。
セレスティアの赤い瞳が細められる。「ただの野盗ではないわ。迷宮を越えようとする意思を持っている」
東堂は苦笑しながらも、拳を鳴らした。
「ダンジョン帰りにこれかよ。けど――いいな、わかりやすくて」
「試合じゃないぞ、東堂殿」アリアが鋭い声で制する。
「わかってるさ。本気でやる」
フェルナが後方から風を送り、仲間たちの足を軽くする。
「急ぎましょう。森を抜ければ町はすぐ」
「合図を送った。国民隊も動き出してるはずだ」ルーンが肩越しに答える。
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その夜。
月明かりに照らされ、山の折れを越える影があった。
二十余りの人影。鎧はまばら、武器も雑多。だが、列は乱れず、灯火も抑えられている。
その中心を歩くフードの人物が、低く呟いた。
「……近い。道は示されている。あの“国”へ」
風がざわめき、草木が揺れる。
まるで森そのものが、彼らの足音を嫌っているかのように――。
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次回予告
迫る影の正体は何者か。
アリア隊は間に合うのか。
そしてルーンブルグの民が初めて直面する“外からの侵入者”――その夜、国の命運を左右する戦いが始まる。




