魔境国アリアンロッド・秘匿扉探索編 その11 呪術の影
⸻
1 敵本陣、秘策の用意
黒旗のはためく大天幕に、重苦しい空気が満ちていた。
机の上の戦況図には、赤い駒が次々と倒されている。竜騎士団、土のゴーレム、騎兵隊……どれも「名もなき光」と呼ばれ始めた四つの鋼影によって崩されていた。
「……光の影に、これほどまで手を焼くとは」
白髭の老将が低く唸る。
「将軍、すでに兵たちの間では『神罰』と囁かれております。士気が削がれる前に、打つ手を……」
参謀が怯えた目で進言する。
重苦しい沈黙を破ったのは、甲冑に身を固めた総大将だった。
「呼べ。——呪術師隊を」
場が凍りつく。
「まさか、あれを……?」
「禁じられし部隊……」
だが総大将は首を振った。
「背に腹は代えられぬ。竜をも打ち落とす鋼を砕けるのは、心を惑わす呪のみよ」
その言葉を合図に、黒装束の一団が幕内に入ってきた。骸骨の仮面をかぶり、杖に血塗られた符を吊るす彼らの姿は、不吉の化身そのものだった。
先頭の男が乾いた声で笑う。
「心なき鉄とて、動かすのは人。人の心を縛れば、鋼はただの棺となる……」
幕内に誰も反論できる者はいなかった。
⸻
(→つづきます)




