魔境国アリアンロッド・秘匿扉探索編 その3 幻影の試練
白亜の広間に、幻影の騎士たちが立ちはだかる。
その数、十余。武具は古代の意匠を帯び、ひとりひとりが実在の英雄を思わせる迫力を放っていた。
「……本物じゃない。だが、気配は生きている」
以蔵の手が刀の鯉口を切る。
「幻影でも、殺意は本物みたいだね」ティアが軽口を叩くが、声には緊張が混じっていた。
アリアは一歩前へ出る。
「皆、油断するな。試す気なら……こちらも応えるまでだ」
剣を構える姿に、仲間の呼吸が整う。
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■ 開戦
最初の一撃は幻影の方からだった。
槍を持つ騎士が突進、空気を裂く。
「任せろ!」シルが跳び込み、刃を弾く。体勢を崩さぬまま背後に回り込み、喉を狙う。
フェルナが矢を放つ。幻影の胸を貫くが、光が弾けただけで倒れない。
「魔力で形を保ってる……厄介ね」彼女は眉を寄せた。
以蔵は二体目と渡り合う。刃が交わり、火花が散る。
「ぬるい剣筋ぜよ!」斬り伏せると、幻影は霧散した。
「……倒せる」アリアが確認するように呟く。
エリオットが骸骨兵を呼び出す。「囮になれ」
白骨の剣士たちが幻影を取り囲み、ルーンの号令でバディが跳びかかる。
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■ 幻影の強さ
「——っ!」
シルが押し込まれ、足元を払われる。
すかさずアリアが間に入り、剣で受けた。
重い。まるで鉄塊を受け止めたようだ。
「アリア!」
フェルナの矢が援護するが、幻影は盾で防ぐ。
セレスティアが舞い込む。真紅の爪が閃き、幻影の顔面を切り裂いた。
「ふふ……相手をするに値するわね」
冷ややかな声が広間に響く。
ティアは後衛の二体に向け、幻惑の魔力を撒いた。
「眠れ、眠れ……」
しかし幻影は無表情のまま剣を振り上げる。
「効かない!?」ティアの目が見開かれた。
「……精神すら試してるんだ。甘い幻惑は通じん」エリオットが冷静に分析する。
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■ 心を揺さぶる影
次の瞬間、幻影が変じた。
姿が揺らぎ、仲間それぞれにとって“弱点”となる存在へと姿を変えていく。
シルの前には、幼い頃自分を虐げた獣人の姿が。
「な……お前……!」彼女の動きが止まる。
フェルナの前には、滅んだ故郷の同胞たち。
「どうして……ここに……」指先が震えた。
ティアの前には、かつて自分を使い捨てた魔族の男。
「アンタまで……」笑みが凍りつく。
「幻覚か。……やれやれ」セレスティアが赤い瞳を細めた。「心を乱す試練……か」
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■ アリアの声
仲間の動きが鈍り始める。
幻影は容赦なく剣を振るい、追い詰めてくる。
「皆、惑わされるな!」
アリアの声が広間に響いた。
「これは影にすぎん! 本物ではない! ここにいるのは——我らだ!」
剣を振り下ろし、目の前の幻影を一刀両断する。
光が弾け、虚ろな影は消えた。
「……っ」シルが目を見開く。
フェルナが矢を握り直し、ティアが息を吐いた。
「そうだ、アリアが言う通りだ……!」フェルナが矢を放ち、幻影の同胞を貫く。影は霧散した。
シルも短剣を交差させ、一気に喉を裂いた。
「私は……もう、負けない!」
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■ 試練の終わり
残る幻影も次々と霧散していく。
最後に立っていた巨躯の騎士を、以蔵とアリアが同時に斬り伏せた。
広間に静寂が戻る。
息を荒げる仲間たちの胸には、しかし確かな充実感があった。
「試したんだな……心の強さを」エリオットが低く言う。
セレスティアは微笑み、「合格、ということかしら」
その言葉に応じるように、広間の奥の扉が静かに開いた。
冷たい光が差し込み、さらに深い空間への道が現れる。
「進もう」アリアが剣を掲げる。
仲間たちは頷き、次なる試練へと足を踏み出した。
(つづく)




