表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

477/666

魔境アリアンロッド・第二十階層編 第6話「守りの間——三つの脈で開く扉」



 翌朝。工房の空気にはまだ昨夜の熱が残り、以蔵の依代が座した器は安らかに光を沈めていた。

 だが、今日の課題はそれを守るだけではない。ルネオスが口にしていた——守りの間。扉をひらけば、この階層に眠る古代の機構と、新たな骨格が見えるはずだ。



◇ 準備の朝


 アリアは炉の灰を払いながらみんなを見渡した。

「昨日の合図は完璧だった。……今日も三つで合わせるぞ」

「数字も揃えとる」ボリスが帳面を掲げる。「三つの脈を束ねる。魔力、霊力、そして地脈や」

「薬液は調整済み!」イザベラが小瓶を傾ける。「匂いはキツいけど、開けるのに必要だからね」

「火は静かに燃えとる。今朝のは機嫌がええ」バロスが赤ら顔で笑う。


 ルネオスは指を組み、静かに言う。

「扉を開くには“呼ぶ声”と“三つの脈”が必要。——誰か一人の力では足りない。全員で揃えてほしい」



◇ 守りの間の扉


 案内された先は、階層の奥。壁は磨かれた石で、中央に巨大な扉が鎮座していた。

 表面には流れるような三本の線が刻まれている。それぞれが中央で交わり、脈動のように淡く光っていた。


「これが……」アリアは低くつぶやく。

「三つの脈」ルネオスが指差した。「左が魔力。右が霊力。下が地脈。すべてが揃う時、扉は応じる」


「つまり、オレとエリオットが前に出るってことか」ボリスが苦笑する。

「そしてアリアが呼ぶ声を重ねる」エリオットが続ける。

「よし、なら火は俺が温める。地脈は任せえ」バロスが胸を叩いた。



◇ 三つの合図


 アリアは掌をかざし、短く呼んだ。

「——一(準備)」

 魔力の脈が淡く震え、フェルナの補助魔法が流れ込む。

「——二(受け止め)」

 霊力の脈にエリオットの術式が乗り、以蔵の気配が薄く重なった。

「——三(固定)」

 バロスが炉の火をかざし、ボリスが地脈の数字を読み上げた。


 三つの脈が同時にぱんと光を放ち、扉の紋様が動き始める。

 線が重なり、円が描かれ、中心に小さな瞳のような光が開いた。



◇ 守りの間の中で


 扉が音もなく開く。中はひんやりとした広間で、天井からは光る鉱石が垂れ下がっていた。

 中央には石の台座、その上に古代の設計盤が置かれている。

 周囲の壁には、骨格のような枠組み。巨大な背骨が組み込まれ、まだ眠っている。


「……これは街の“骨”だ」ボリスが呟いた。

「動かすにはまだ力が要る。けれど、支えるなら十分」イザベラが指で盤を撫でる。

「つまり、ここを抱えていけば街の防衛線は二重になる」アリアがまとめた。


 ネオンが光を増幅し、アルネオラが骨格の張りを確認し、クルネオが記録を取り始める。

 ルネオスは静かに笑った。「守りの間は、君たちの街を支える背骨になるだろう」



◇ 余韻


 帰り道、以蔵の依代が低く囁いた。

『……アリア。わしの座も、街の座も、呼び声で立つ。合図で受け止め、名で固定する。それが国の骨になるんじゃろ』

「国にするつもりはない」アリアは肩をすくめた。

『せやけど、人が呼べば座は立つ。わしらは、もうそういう流れに乗っちゅうがや』


 アリアは答えなかった。だが、胸の奥で、鼓動が三つの脈と重なるのを感じていた。



→次回予告

第7話「設計盤の声——古代の記録が語るもの」

古代の設計盤が示すのは、防衛だけでなく“次の進化”。

それは街のためか、それとも異界の記憶か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ