アリアンロッド発展の章 第十五階層編 第4話:リカントとの邂逅
腐蝕の溜まり場を抜け、石殿の奥へと進むと、空気が一変した。
広間の中央に立つのは、毛並み逆立つ獣人の巨戦士――リカント。
瞳は血に濡れ、咆哮とともに爪を振りかざす。
「うわっ……でけぇ……」マキシが後ずさる。
「気をつけて! 普通のリカントじゃない!」フェルナが声を張る。
「……彼、理性を失いかけてる」ルーンの声が震えた。
リカントは牙を剥き、仲間へ突進。
リマが盾を構え、衝撃を正面から受け止める。ガァン!
「くっ……重い!」
すかさずアリアが踏み込み、リカントの腕を取り――入り身投げ。
巨体が床に叩きつけられるも、すぐに立ち上がる。まるで痛みを感じていない。
◆
「殺さないで!」ルーンが叫んだ。
「彼はまだ……完全には堕ちていない!」
その声に、アリアが動きを止める。
「ルーン、行けるか?」
「……試す!」
ルーンは杖を握りしめ、リカントの瞳をまっすぐに見つめた。
「あなたの痛み……私に預けて!」
闇魔術が影を伸ばし、リカントの胸へ繋がる。
ルーンの心に流れ込むのは、孤独と怒り、群れを失った絶望。
「……こんなにも……!」ルーンが歯を食いしばる。
「三拍で切れ!」トットが叫ぶ。
「タン、タン、タン……ピタッ!」
痛みを闇に吸い取り、ルーンは大地へ返した。
◆
リカントの瞳が揺らぐ。
まだ荒ぶる呼吸の中に、かすかな理性が戻っていた。
「……お前……」
低い声が漏れる。
「俺の声が……聞こえるか?」ルーンが問いかける。
「……ああ……」リカントは膝をついた。「俺は……ただ、守りたかった……」
その言葉に、ルーンは微笑んだ。
「じゃあ、これからは一緒に守ろう。アリアンロッドという居場所を」
リカントは深く頷き、荒い息を吐いた。
「……導いてくれるなら、従おう」
◆
アリアは剣を収め、ルーンの肩に手を置いた。
「よくやったな。お前の力がなければ、彼は倒れるだけだった」
ルーンは息をつき、額の汗を拭う。
「まだ……次がある。ミノタウロスも待ってる」
闇の奥から、重い足音が響いた。
――ドォン……ドォン……
壁を揺らす巨躯の影。次なる試練が迫っていた。
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次回予告
第十五階層編 第5話:ミノタウロスの試練
力の化身、迷宮の牛頭が立ちはだかる。
ルーンのティムが、再び仲間を増やす鍵となる。




