アリアンロッド発展の章 第十五階層編 第3話:腐蝕の溜まり場
虚ろの石殿を抜けた先に広がっていたのは、じめりと湿った大空洞だった。
ぬめる石床、滴り落ちる水、どこからか漂う鼻を刺すような毒の匂い。
その中央で、ぶくぶくと紫色の泡が湧き立ち、やがてどろりとした塊がずるりと這い出した。
「スライム……でも普通じゃない!」
カテリーナが叫ぶ。
紫のスライムが十、二十……やがて三十を超え、無数の影となって広間を覆った。
「ポイズンスライムだ!」フェルナが矢を番える。「気をつけて、毒を撒く!」
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最前線に立ったのはリマだった。
盾を掲げ、飛んできた毒液を受け止める。**ジュッ!**と音を立て、表面が煙を上げた。
「大丈夫、表面加工はしてあるわ! 押さえるから、みんな後ろから!」
「行くぜ!」マキシが剣を振るい、飛び跳ねるスライムを斬り払う。
「ぐにゃぐにゃして斬りにくいけど……俺の速さなら!」
ヨーデルは詠唱を叫ぶ。
「――水球弾!」
弾丸のような水がスライムに直撃し、弾け飛ばす。
「今だフェルナ!」
「わかってる!」氷矢が水をまとったスライムを凍結させ、一気に粉砕。
「すごい……!」カテリーナは興奮を押さえつつ、解毒薬を仲間に手渡して回る。
「この薬、効き目は短いけど――リマ、飲んで!」
「ありがとう、助かる!」
◆
その戦いを見つめていたルーンの目が鋭く光った。
「……この群れ、ただ暴れてるんじゃない。奥に“支配の核”がいる!」
「核?」アリアが問い返す。
「そう! スライムたちの心を束ねてる存在が奥に……。そこを断てば、群れは沈静化するはず!」
ルーンは杖を掲げ、魔力を練り上げた。
「――来て、影の返響!」
彼女の周囲に闇の波が広がり、スライムの吐き出す毒の痛みが逆流して返っていく。
のたうつスライムたちが道を空け、奥の大塊が姿を現した。
◆
それは、十体分を束ねたかのような巨大ポイズンスライム。
ぬるりと揺れる体内には、脈打つ黒い核が見え隠れする。
「みんな! あれが支配者だ!」ルーンの叫びに、一行は頷いた。
ヨーデルが両手を掲げ、全力の詠唱を放つ。
「――水流奔流!」
奔流がスライムを包み、核を揺らす。
フェルナの矢が氷の刃となり、その一点へ突き刺さる。
「これで……終わり!」
ズシャァァン!
黒核が砕け、毒の霧が一気に晴れていった。
◆
しばしの沈黙のあと、ルーンは膝をついた。
「はぁ……はぁ……でも、みんなのおかげで……!」
その体を温かな光が包む。
ルーンの魔力が渦を巻き、彼女自身が一段階上へと進化するのを皆が目にした。
「……レベルが、上がった……?」ヨーデルが目を丸くする。
「ううん、ただの成長じゃない」フェルナが微笑んだ。「彼女は“群れを導く者”として新しい力を得たんだ」
ルーンは深く息を吐き、仲間に微笑んだ。
「みんなが信じてくれたから……私、もっと強くなれた」
「へへっ、やるじゃん!」マキシが笑い、リマが頷いた。
「ええ、もう私たちの前に立ちはだかるものなんてないわ」
アリアは静かに剣帯を直し、仲間たちを見渡す。
「よし……この勢いで次に進むぞ。リカントとミノタウロスが待っている」
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次回予告
第十五階層編 第4話:リカントとの邂逅
血に酔った獣人戦士との激突。ルーンの声が、彼を救う光となる。




