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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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アリアンロッド発展の章 第十五階層編 第3話:腐蝕の溜まり場

虚ろの石殿を抜けた先に広がっていたのは、じめりと湿った大空洞だった。

 ぬめる石床、滴り落ちる水、どこからか漂う鼻を刺すような毒の匂い。

 その中央で、ぶくぶくと紫色の泡が湧き立ち、やがてどろりとした塊がずるりと這い出した。


「スライム……でも普通じゃない!」

 カテリーナが叫ぶ。

 紫のスライムが十、二十……やがて三十を超え、無数の影となって広間を覆った。


「ポイズンスライムだ!」フェルナが矢を番える。「気をつけて、毒を撒く!」



 最前線に立ったのはリマだった。

 盾を掲げ、飛んできた毒液を受け止める。**ジュッ!**と音を立て、表面が煙を上げた。

「大丈夫、表面加工はしてあるわ! 押さえるから、みんな後ろから!」


「行くぜ!」マキシが剣を振るい、飛び跳ねるスライムを斬り払う。

「ぐにゃぐにゃして斬りにくいけど……俺の速さなら!」


 ヨーデルは詠唱を叫ぶ。

「――水球弾ウォーターシュート!」

 弾丸のような水がスライムに直撃し、弾け飛ばす。

「今だフェルナ!」

「わかってる!」氷矢が水をまとったスライムを凍結させ、一気に粉砕。


「すごい……!」カテリーナは興奮を押さえつつ、解毒薬を仲間に手渡して回る。

「この薬、効き目は短いけど――リマ、飲んで!」

「ありがとう、助かる!」



 その戦いを見つめていたルーンの目が鋭く光った。

「……この群れ、ただ暴れてるんじゃない。奥に“支配の核”がいる!」


「核?」アリアが問い返す。

「そう! スライムたちの心を束ねてる存在が奥に……。そこを断てば、群れは沈静化するはず!」


 ルーンは杖を掲げ、魔力を練り上げた。

「――来て、影の返響ペインリターン!」


 彼女の周囲に闇の波が広がり、スライムの吐き出す毒の痛みが逆流して返っていく。

 のたうつスライムたちが道を空け、奥の大塊が姿を現した。



 それは、十体分を束ねたかのような巨大ポイズンスライム。

 ぬるりと揺れる体内には、脈打つ黒い核が見え隠れする。


「みんな! あれが支配者だ!」ルーンの叫びに、一行は頷いた。


 ヨーデルが両手を掲げ、全力の詠唱を放つ。

「――水流奔流アクアバースト!」

 奔流がスライムを包み、核を揺らす。


 フェルナの矢が氷の刃となり、その一点へ突き刺さる。

「これで……終わり!」


 ズシャァァン!

 黒核が砕け、毒の霧が一気に晴れていった。



 しばしの沈黙のあと、ルーンは膝をついた。

「はぁ……はぁ……でも、みんなのおかげで……!」


 その体を温かな光が包む。

 ルーンの魔力が渦を巻き、彼女自身が一段階上へと進化するのを皆が目にした。


「……レベルが、上がった……?」ヨーデルが目を丸くする。

「ううん、ただの成長じゃない」フェルナが微笑んだ。「彼女は“群れを導く者”として新しい力を得たんだ」


 ルーンは深く息を吐き、仲間に微笑んだ。

「みんなが信じてくれたから……私、もっと強くなれた」


「へへっ、やるじゃん!」マキシが笑い、リマが頷いた。

「ええ、もう私たちの前に立ちはだかるものなんてないわ」


 アリアは静かに剣帯を直し、仲間たちを見渡す。

「よし……この勢いで次に進むぞ。リカントとミノタウロスが待っている」



次回予告


第十五階層編 第4話:リカントとの邂逅

血に酔った獣人戦士との激突。ルーンの声が、彼を救う光となる。

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