アリアンロッド発展の章 第十五階層編 第2話:虚ろの石殿の謎解き
十五階層に降り立った一行を迎えたのは、冷え切った石の空気だった。
どこまでも広がる灰色の石造りの広間。壁には古代の文様が刻まれ、天井は高く、声を出すと反響が幾重にも折り返してくる。
「……ここは、やけに静かだな」
シルが耳をぴくりと動かし、辺りをうかがう。
「いや、静かどころか……虚ろな感じがする」マキシが剣を構えつつ呟く。
その言葉どおり、石殿はまるで空洞の心臓のように虚無を響かせていた。
◆
「見て!」リマが指差す。
広間の中央には、巨大な石像が立っていた。
人の形をしているが顔はなく、胸元には四つの凹み。
「……これ、仕掛けじゃない?」ヨーデルが目を輝かせる。
彼はすぐに壁へ駆け寄り、古代文字をなぞり始めた。
「“声は扉をひらく。心をそろえ、響きを合わせよ”……だって!」
「心をそろえる?」カテリーナが薬箱を抱えたまま首をかしげる。
そのとき、広間に再び虚ろな響きが広がった。
――タン……タン……タン……。
まるで、足音のようなリズム。
◆
「これは……音の試練かもしれない」フェルナが呟いた。
「声を合わせて、リズムを揃えろってことだろ」シルが短剣をくるりと回し、軽く足でタンと打つ。
「よし、やってみるか」アリアが仲間を見回した。
「ヨーデル、号令を頼む」
「任せて!」
ヨーデルは胸を張り、みんなの前に立った。
「三拍子だ! 俺の合図で、“タン・タン・タン”って石床を踏むんだ!」
◆
「せーの!」
――タン! タン! タン!
最初はずれた音が響き、壁に不協和音が跳ね返る。
「ちょっ、マキシ遅れてる!」
「うるせぇ! お前が早いんだよ!」
「ふふ、落ち着いて」リマが二人の間に立ち、テンポを合わせた。
もう一度。
――タン! タン! タン!
今度は揃った。虚ろな広間に心地よいリズムが響き渡る。
その瞬間、石像の胸の凹みが光り始めた。
◆
「やった!」ヨーデルが歓声をあげる。
「なるほど……心を揃えるって、こういうことか」フェルナが感心して頷いた。
四つの凹みには光の玉が浮かび、次第に石像全体が明るくなる。
やがて、大地を震わせるような音とともに――
ゴウン……ゴウン……
奥の扉が開き、暗い回廊が顔をのぞかせた。
「突破成功だな!」アリアが剣帯を直す。
「よっしゃ! さすが俺ら!」マキシが拳を突き上げる。
「ふふ……でも、ここからが本番よ」リマが真剣な顔で言う。
「この先には、まだ何か試練があるはず」
「……楽しみだな」ヨーデルの瞳が、また好奇心で輝いた。
一行は灯りを掲げ、奥の闇へと足を踏み入れていく。
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→ 次回「第3話:腐蝕の溜まり場」
うじゃうじゃと湧き出るポイズンスライムの群れに、子ども組とルーンたちが挑む!




