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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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アリアンロッド発展の章 第十四階層編 第2話:揺れる心と止める剣

艶やかな影が霧の奥から歩み出る。

 黒紫の衣をまとい、白い肌と妖しく光る瞳。サキュバスが静かに笑みを浮かべた。


「ふふ……ただの魔物とは違うようね。あなたたち、少しは楽しませてくれるかしら?」


 その瞬間、甘い香りが漂い、空気が揺らいだ。

 仲間たちの意識を狙うように、幻惑が波のように押し寄せる。



「くっ……」

 シルが耳を押さえ、足をよろめかせる。

 フェルナも矢を握る手が震え、視界が歪むのを感じていた。


 だが一番強く影響を受けたのは――


「……!」

 ヨハネスだった。巨剣を握る腕が震え、その眼差しは虚ろに。

 サキュバスの幻影が心に入り込み、戦場ではなく甘い夢を見せていた。


「ヨハネス!」

 アリアが駆け寄るが、彼の剣が仲間に向かって振り下ろされかける。


「……殺させはせん!」


 アリアは刀を抜かず、正面から飛び込む。

 巨剣が振り下ろされる寸前――アリアの手がヨハネスの腕をとらえ、体重を流す。


「はっ!」


 四方投げ。

 巨躯が宙を舞い、霧の床にどんと叩きつけられる。


「ぐっ……!」

 ヨハネスは正気を取り戻すが、その目にうっすらと動揺が残っていた。



 サキュバスはくすりと笑う。

「力自慢の戦士でも、心を揺らせば簡単に刃は仲間へ向く……。あなたたち、本当に信じ合えているのかしら?」


「黙れ!」

 シルが歯を食いしばって立ち上がり、短剣を構える。

「仲間を試すなんて、最低だ!」


 フェルナも矢をつがえ、冷ややかに言い放った。

「揺らがせようとした心を、あなたに見抜けると思わないで」



 アリアは深く息を吐き、仲間の前に立つ。

「俺たちは刃を交えるためにいるんじゃない。互いを守るために戦うんだ」


 その声に、ヨハネスの瞳がはっと揺れる。

「……私は……仲間を……」

 彼は額の汗をぬぐい、剣を改めて握り直した。


 サキュバスの笑みがわずかに陰る。

「……ふふ。面白い。なら、次は――彼女に聞いてみようか」


 視線がルーンへと突き刺さる。


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