アリアンロッド発展の章 第十三階層編 第11話 雷鳴の庭と精霊の試み
雷鳴の庭
嵐を抜けた先に広がっていたのは、青白い光に包まれた不思議な庭だった。
地面は滑らかな水晶で覆われ、踏みしめるたびに細い稲妻が足元から走る。
頭上には無数の光球がぶら下がり、雷鳴のように瞬いては消える。
そのすべてが呼吸のように脈打ち、まるで生きているかのようだ。
「……迷宮が造った庭……なのか?」ルーンが目を丸くする。
「いや、これは“呼ばれた場”だ」アリアが剣を下ろし、視線を巡らせた。
「試すための舞台……だな」
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雷精の顕現
庭の中央に、一陣の雷風が渦を巻いた。
やがて光の塊は小さな人の姿を取り、雷をまとった精霊となる。
「……我は雷精。お前たちの“調律”を見極める」
その声は頭上からも足元からも響き、胸に直接落ちてくる。
雷精が指を鳴らすと、水晶の床から巨像がせり上がった。
全身に雷をまとった雷の守護像だ。
「雷鳴を鎮めよ。己らの息を、雷と合わせよ」
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試練の戦闘
守護像の拳が振り下ろされるたびに、床に雷が奔った。
マキシが盾を掲げる。「ぐっ……重ぇ!」
「止まるな! 三歩で区切れ!」アリアが声を飛ばし、拳の勢いを合気道で流す。
シルは影を踏んで走り、巨像の足首に短剣を叩き込む。
「ダブルスラッシュ!」
だが雷光が迸り、弾かれる。
「おっと、こいつは痺れるねぇ!」
トットが影縫いを走らせ、巨像の腕を一瞬止める。
「隙、作った!」
「任せろ!」ヨハネスが剣を振るい、雷を帯びた腕を流すように切り裂いた。
その合間に、ルーンが魔獣たちを指揮する。
「フチマモ、足場を固めて! ソラビト、風で雷を散らして!」
仲間の呼吸と精霊たちの動きが、少しずつひとつに重なっていく。
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風と雷の耳
フェルナは弓を引き、耳を澄ませた。
聞こえるのは、雷鳴の轟きだけではない。
その裏に潜む、細い唄。
「……雷も歌ってる。風と重なって……一本の旋律になってる」
矢を放つと、雷の筋を裂き、守護像の胸を貫いた。
稲妻が散り、巨像の動きが鈍る。
「今だ、合わせろ!」アリアが叫ぶ。
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調律の瞬間
全員が同時に動く。
アリアが拳を流し、マキシが盾で受け、シルが刃を走らせ、トットが影で注意を逸らす。
ヨハネスの剣が軌道を折り、ルーンの魔獣たちが支える。
そしてフェルナの矢が雷と風を束ね、巨像の中心を撃ち抜いた。
ゴォォン!
雷鳴が途切れ、庭全体が透明な光に包まれる。
雷精が浮かび上がり、微笑んだ。
「……見事だ。雷は鎮まった。お前たちの調律は、嵐さえ越える」
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新たな予兆
マキシの盾に淡い文様が浮かんだ。
「これ……勝手に光ってる?」
「守護の紋様だ」アリアが頷く。「お前の覚悟を刻んだんだな」
トットの影が稲妻を吸い込み、闇に小さな光が瞬いた。
「……次は、雷ごと返せる気がする」彼は短剣を握り直す。
そしてフェルナの耳には、風と雷が重なった旋律が届き続けていた。
「……次は、この歌をもっと遠くまで聞く。風と雷、両方を」
雷精は頷き、光となって消えた。
庭の奥に新たな扉が現れ、その隙間からは澄んだ風と微かな雷鳴が流れ込んでくる。
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終章
アリアは剣を収め、仲間に目を向けた。
「止まれる間があれば、雷も風も鎮まる。――次も進もう」
全員が頷き、扉の前に立った。
彼らの歩みは、もうただの探索者のものではなかった。
風と雷を調律する者たちとして――。
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→次回予告――
第十三階層編 第12話「守護の紋様と影雷の刃」
マキシの盾に宿った紋様と、トットの影に宿る雷光。
次なる層で試されるのは「守る力」と「返す力」。
仲間の連携がさらに深化し、進化の第二段階が始まる――。




