アリアンロッド発展の章 第十三階層編 第10話 嵐の門、風を裂く試練
嵐の層への扉
石の扉を押し開くと、全員の視界を白い閃光が覆った。
稲妻が壁を走り、轟音が腹の底を震わせる。空気は一瞬で冷え、次の瞬間には焼けるように熱い。
ここは――嵐の層。
「こりゃ……一歩も気を抜けねぇな」シルが目を細め、髪を押さえた。
「風が乱れすぎて、矢もまっすぐ飛ばない」ルーンが眉をひそめる。
だがフェルナの耳は震え、瞳は青く澄んでいた。
「いいえ……嵐の中にも“筋”がある。聞こえるの。雷と風の合間に、細い道が」
アリアは頷いた。「なら、道を聞け。私たちは支える」
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試練の始まり
足を一歩踏み出すごとに、風が壁のように襲いかかる。
マキシが盾を掲げるが、押し戻される。
「ぐぅっ……こりゃ壁ってより、巨人に押されてるみてぇだ!」
「止まるな、三歩で区切れ!」アリアが叫び、合気道の呼吸を刻む。
タン、タン、タン――ピタッ。
そのリズムに合わせ、風が一瞬だけ弱まる。
「この間なら進める!」ルーンが声を上げ、契約魔獣たちを走らせた。
ソラビトが風を裂き、フチマモが足場を固める。
その隙に全員が進み、また三歩で止まる。
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嵐の魔物
稲妻の閃光とともに、風をまとった獣が飛び出した。
雷狼――嵐の守り手だ。
毛皮は光を帯び、爪は風刃となって振り下ろされる。
「来るぞ!」シルが影を駆け、斬り込む。「ダブルスラッシュ!」
だが雷狼の爪が火花を散らし、刃を弾く。
「くっそ、固ぇ!」
トットが影縫いを放つが、雷光が釘を焼き切る。「……縛れねぇ……!」
「私が行く!」アリアが踏み込み、雷狼の腕を掴む。
「――四方投げ!」
合気道の技で雷狼を地へ叩きつけるが、すぐに風に乗って立ち上がる。
ヨハネスが囁いた。「……ヒソヒソ……剣で……軌道を折る……」
長剣が稲妻の爪を受け流し、流れを斬り裂いた。
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風を裂く矢
嵐は激しさを増す。矢も剣も軌道を狂わされる中、フェルナは静かに耳を澄ませた。
「……雷鳴の裏に……一本の唄がある」
風見矢を番える。矢羽が震え、雷鳴と風が一本の筋に集まる。
「今……行く!」
矢は光と風をまとい、一直線に放たれた。
ズバァン!
雷狼の胸を貫き、雷光が四散する。
風が止み、嵐の轟音が一瞬だけ消えた。
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試練を越えて
荒れ狂っていた風が穏やかになり、通路の奥に青い光の門が浮かんだ。
「……やったな」シルが肩で息をしながら笑った。
「フェルナの耳がなきゃ、絶対に抜けられなかった」ルーンが感嘆する。
マキシが盾を叩き、「やべぇ……矢が風と一緒に光ったんだぜ!」と声を弾ませた。
「……ヒソヒソ……次は……もっと……耳を澄ませ……」ヨハネスが囁く。
フェルナは弓を抱きしめ、青く光る門を見据えた。
「まだ……もっと聞けるはず。風の唄も、雷の声も。次はもっと遠くへ」
アリアは剣を収め、仲間を見渡す。
「止まれる間があったから進めた。――次もそうだ。行こう」
門を抜けると、さらに深い試練が待っている。
だがその前に、全員の胸に確かな誇りが芽生えていた。
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→次回予告――
第十三階層編 第11話「雷鳴の庭と精霊の試み」
嵐を越えた先に広がる青白い庭園。
雷精が現れ、仲間たちに“雷の調律”を求める。
新たな連携と進化の予兆――試練はさらに苛烈さを増す。




