夏編 第五話 第五階層 ― 風の洞穴
1.風鳴りの洞窟
第四階層の迷路を抜け、さらに下りた先は、吹きすさぶ風が響く大洞窟だった。
風穴がいくつも開き、笛のような音を鳴らしている。
時おり突風が吹き抜け、松明の火が激しく揺らされた。
「……風が敵になるか」
アリアは剣を抑え、仲間を見渡す。
シルが耳を伏せながら叫んだ。
「これ、まともに歩けないよ!」
フェルナは目を細め、弓を抱えて答える。
「音で方向感覚を狂わせる仕掛け。……ここは慎重に進まないと」
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2.風の罠
一行が歩き出すと、突如として床の石板が沈み、洞窟の天井から強風が吹き降ろされた。
アリアが体を沈め、オリビエがルーンを庇う。
「飛ばされるな!」
シルは身軽に岩に飛び移り、フェルナが矢で風穴を塞ぐ。
「少しの間なら……これで!」
風が弱まった隙に、皆は先へ進んだ。
だが、その先で影が舞い降りる。
翼を持った魔物——風刃をまとうコウモリの群れだ。
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3.空を裂く戦い
「来るぞ!」
アリアが構え、シルが跳び出す。
「飛燕斬り!」
風に煽られながらも、素早い二連撃で一体を落とす。
フェルナは矢を引き絞り、風を読む。
「燕返し!」
弧を描いた矢が二体を貫き、岩に突き刺さる。
オリビエが大剣を振り払い、突風に抗いながら斬撃を放った。
「退け!」
しかし数が多く、次々に群れが押し寄せる。
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4.ルーンの呼びかけ
ルーンは震える手で杖を掲げた。
「……みんな、お願い。力を貸して!」
風の中に、小さな影が舞った。
透明な羽根を持つ、小鳥のような精霊だった。
「……あなた、ここにいるのね」
ルーンは目を閉じ、心を込めて叫ぶ。
「——ティム!」
精霊が応え、青白い光が走った。
風の小鳥は群れの中へ飛び込み、鋭い鳴き声を上げる。
するとコウモリたちは怯え、次第に散っていった。
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5.風の導き
戦いが収まると、小鳥の精霊はルーンの肩にとまり、翼を広げた。
「……道を示してくれるみたい」
ルーンが微笑むと、精霊は前方の風穴へと飛び、淡い光を残した。
「すごいな」
シルが肩を竦め、笑う。
「ほんと、あんたが一番頼りになるんじゃない?」
フェルナは記録帳を閉じ、頷いた。
「ルーンの力が、この迷宮を切り開いている」
アリアは剣を収め、仲間を見回した。
「第五階層、突破だ。風も仲間に変えられる……そうだろう?」
ルーンは頬を赤らめ、うなずいた。
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6.次なる階層へ
風の精霊の導きに従い、仲間たちは洞窟を抜けた。
階段の先には、より冷たい空気が待ち受けている。
「次は……氷か?」
オリビエが呟き、アリアは小さく頷いた。
「進もう。まだ始まりに過ぎない」
光を纏った小鳥の精霊が羽ばたき、闇の奥へと道を照らしていた。
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(夏編 第五話・了)




