裁きの村、エルムウッドその1
アリアは、故郷を離れ、ネクロマンサー見習いの少年エリオットたちとの別れを経て、再び独り旅を続けていた。彼女の心には、仲間たちとの温かい思い出が宿り、その経験が新たな旅路の糧となっていた。妹の病気を治すという目的を達成した今、アリアの旅は、世界の闇を晴らし、困っている人々を助けるという、より大きな使命へと変わっていた。
山を越え、谷を越え、国境を越え広大な大地をひたすらに歩く日々。ある日、アリアは突然の激しい嵐に巻き込まれた。視界を遮るほどの雨と、吹き荒れる風に、彼女は近くに身を隠せる場所を探していた。幸運にも、彼女の目に飛び込んできたのは、人里離れた小さな村の明かりだった。
雨の中をひたすら走り、ようやく辿り着いたのは、深い森の奥にひっそりと佇む小さな村、エルムウッドだった。村の入り口には、古びた木製の門があり、その向こうには、暖かな光が灯る家々が並んでいた。
「…すみません…! 誰か…いますか…?」
アリアは、門を叩き、声をかけた。すると、門の向こうから、一人の少女が姿を現した。
少女は、亜麻色の髪を三つ編みにし、大きな瞳をしていた。彼女のそばには、一匹の犬と、小さなゴブリンが寄り添っている。ゴブリンは、驚くほどおとなしく、少女の足元で、丸くなっていた。
「…わぁ…! 旅の人…? こんな嵐の中…大丈夫…?」
少女は、アリアのびしょ濡れの姿を見て、心配そうな表情を浮かべた。
「…はい。なんとか…辿り着けました。あの…一晩…泊めていただけませんか…?」
アリアは、そう言って、深々と頭を下げた。
少女は、アリアの言葉に、にこにこと微笑んだ。
「…もちろんです! こんな嵐じゃ…すぐには止みそうにないし…。よかったら…ウチへ来て…ゆっくりしていって!」
少女は、そう言って、アリアを、家の中へと、招き入れた。
少女の名前は、ルーン。彼女は、この村で、一人暮らしをしているという。
家の中は、暖炉の火が燃えており、とても暖かかった。アリアは、ルーンの用意してくれた温かいスープを飲み、冷えた体を温めた。
「…この子…は…?」
アリアは、ルーンの足元で、丸くなっているゴブリンを見て、尋ねた。
「…あ! この子は…私の…相棒の…ゴブリンよ。名前は…トット。こっちは…犬の…バディ」
ルーンは、そう言って、トットとバディを、優しく撫でた。
「…ゴブリン…!?」
アリアは、驚きを隠せない。ゴブリンは、人間を襲う、凶暴な魔物として知られていたからだ。
ルーンは、アリアの驚いた顔を見て、にこにこと微笑んだ。
「…ふふふ…びっくりした…? トットはね…私が…小さかった頃…森で…迷子になっていたところを…助けてくれたの。それから…ずっと…一緒にいるんだ」
ルーンは、そう言って、トットを、力強く抱きしめた。
アリアは、ルーンの話に、心を打たれた。
「…そう…だったんですね…! ルーンは…テイマー…ですか?」
アリアは、そう尋ねた。
「…わぁ…! どうして…わかったの…!?」
ルーンは、アリアの言葉に、目を丸くした。
「…ふふふ…なんとなく…です。私も…昔…旅の途中で…テイマーの…友達と…出会ったことがあって…」
アリアは、そう言って、ルーンに、エリオットたちの話を、聞かせた。
ルーンは、アリアの話を、目を輝かせながら、聞いていた。
「…わぁ…! アリアさんは…本当に…すごい冒険を…してきたんだね…!」
ルーンは、そう言って、アリアを、尊敬の眼差しで、見つめた。
「…ルーンも…すごいよ。ゴブリンを…テイムするなんて…」
アリアは、そう言って、ルーンに、にこにこと微笑んだ。
ルーンは、アリアの言葉に、少し照れた。
「…ふふふ…でもね…この村では…誰にも…話してないの。もし…トットのことが…バレたら…きっと…村から…追い出されちゃうから…」
ルーンは、そう言って、悲しそうな顔をした。
アリアは、ルーンの言葉に、心が痛んだ。
「…ルーン…! もし…そんなことが…あったら…私が…守るから…!」
アリアは、そう言って、ルーンの肩を、力強く叩いた。
ルーンは、アリアの言葉に、涙を流した。
「…アリアさん…! ありがとう…!」
アリアは、ルーンの家で、二晩、世話になった。
その間、ルーンは、アリアに、村のことを、いろいろと話してくれた。
「…この村はね…昔から…少し…変わった習慣が…あるんだ」
ルーンは、そう言って、少し悲しそうな顔をした。
「…どんな…習慣…?」
アリアは、そう尋ねた。
「…それはね…裁き…っていう…習慣。もし…村に…不幸なことが…起こったら…その原因になった…人間を…村から…追放する…っていう…習慣なの」
ルーンは、そう言って、悲しそうな顔をした。
アリアは、ルーンの話に、驚きを隠せない。
「…そ…そんな…! どうして…?」
「…昔…この村で…疫病が…流行って…たくさんの…人が…死んでしまったことが…あったんだって。その
時…村の…長老が…原因になった…人間を…見つけ出して…追放した…そうしたら…疫病が…治った…って…言われていて…」
ルーンは、そう言って、悲しそうな顔をした。
アリアは、ルーンの話を聞いて、胸が締め付けられるような、思いだった。
そんな非道なことが、本当に許されるのだろうか。
嵐が止み、アリアは、ルーンに、村の仕事を手伝わせてほしいと、申し出た。
ルーンは、アリアの申し出に、にこにこと微笑んだ。
「…わぁ…! ありがとう…! じゃあ…一緒に…畑の…手伝いを…してくれる?」
ルーンは、そう言って、アリアを、村の畑へと、案内した。
村の畑で、アリアは、ルーンと一緒に、畑仕事を手伝った。
しかし、アリアは、奇妙な視線を感じていた。
村人たちは、アリアのことを、まるで、見慣れない動物を見るかのように、じっと見つめている。
「…ルーン…? なんだか…村の人たち…変じゃない…?」
アリアは、ルーンに、そう尋ねた。
「…え…? そう…かな…?」
ルーンは、そう言って、首を傾げた。
アリアは、村人たちの視線に、不気味なものを感じた。
その視線は、まるで、何かを、警戒しているかのように、アリアを、見つめている。
アリアは、村人たちの視線に、胸騒ぎを覚えた。
その夜、アリアは、ルーンの家で、夕食を食べていた。ルーンは、アリアに、にこにこと微笑んだ。
「…アリアさん…! 明日も…一緒に…畑仕事…してくれる…?」
「…うん! もちろん!」
アリアは、そう言って、ルーンに、にこにこと微笑んだ。
しかし、アリアは、ルーンの笑顔の裏に、何か、悲しいものを、感じていた。ルーンは、何かを、隠している。アリアは、ルーンのことが、心配だった。
アリアは、ルーンの笑顔を守るため、この村の奇妙な習慣と、そして、村人たちの視線の謎を、解き明かすことを決意した。
彼女の心には、新たな使命が、芽生えていた。アリアの旅は、新たな謎と、そして、新たな出会いを経て、さらに加速していくのだった。彼女の物語は、未来へと語り継がれていくだろう。
宿屋の主人との出会い
アリアがルーンの家で三日目の朝を迎えた頃、村に一つの小さな変化があった。ルーンが「いつもは閉まっているのに」と不思議そうに指差す先に、一軒の宿屋の扉が開いていた。
「…ああ、あの宿屋の主人は、とても気難しい人なの。よそ者には、絶対に宿を貸さないんだって」
ルーンの言葉に、アリアは少し胸騒ぎを覚えつつも、村の様子を知るため、宿屋へと向かった。
宿屋の主人は、寡黙で、無愛想な男だった。アリアが村の様子について尋ねても、彼はただ「よそ者は、さっさと村から出て行け」と冷たく言い放つだけだった。
「…この村は、よそ者を嫌う。それが、この村の掟だ」
そう言って、主人はアリアを追い出した。
しかし、アリアが宿屋を出ようとしたその時、主人がアリアの背中に向かって、小さな声で言った。
「…もし、何か困ったことがあったら…また、ここへ来い」
アリアは、主人の言葉に、驚きに目を見開いた。
「…どういう…ことですか…?」
アリアが、そう尋ねると、主人は、アリアに、にこりと、ほんの少しだけ、微笑んだ。
「…お前は、この村の人間とは、違う。きっと、この村の…闇を…見抜ける…」
そう言って、主人は、再び、冷たい表情に戻り、アリアを追い出した。
アリアは、主人の言葉に、胸騒ぎを覚えた。この村には、やはり何か、隠されている。宿屋の主人の冷たい態度と、その裏に隠された、かすかな温かさ。その二つの顔を持つ男の言葉は、アリアに、この村の謎を解き明かす、新たなヒントを与えてくれたのだった。




