夏編 第二話 第二階層 ― 闇の回廊
1.降りる階段
第一階層の広間を抜け、中央の石扉を押し開けると、下へ続く階段が現れた。
松明の炎が揺れ、冷たい風が頬を撫でる。
石段は湿り、苔が生え、踏みしめるたびに音が重く響いた。
「……空気が違うな」
オリビエが眉をひそめる。
アリアは一歩前へ出て、仲間に声をかけた。
「気を抜くな。ここからが本当の試練だ」
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2.闇の回廊
辿り着いたのは、果てしなく続く石の回廊だった。
壁には光源はなく、松明の灯りが届く範囲だけがぼんやりと照らされる。
風はなく、湿気と土の匂いが重苦しく漂っている。
「ここ……嫌な感じ」
ルーンが身をすくめ、バディが低く唸った。
シルは短剣を逆手に持ち替え、耳を動かす。
「何かいるな。足音はしないのに……見られてる気がする」
フェルナは矢を番え、風を読んだ。
「風が……止まってる。ここは“閉じた空間”ね」
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3.仕掛け
進むうち、床に不自然な石板が並んでいることに気づいた。
「これは……踏んだら動く類いだ」
シャルルが記録していた設計図を取り出し、オリビエに示す。
「階段や通路の設計と違う。ここだけ“新しい”石だ」
アリアが頷く。
「よし、避けて進もう。誰も不用意に触れるな」
だが——。
バディが鼻を鳴らした瞬間、奥から低い音が響いた。
ゴロゴロゴロ……
天井から石のブロックが落ちてきて、通路を塞いでしまった。
「ちっ、罠が連動してるか!」
オリビエが剣を抜き、仲間を庇う。
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4.暗闇の襲撃者
塞がれた通路の暗闇から、複数の目がぎらりと光った。
四つ足で這う影——巨大なコウモリの魔物だ。
耳を震わせ、甲高い超音波を放つ。
「耳が……!」
ルーンが膝をつき、バディが吠えて応戦する。
シルが歯を食いしばり、飛び込んだ。
「任せろ! ダブルスラッシュ!」
影を翻弄しながら斬り裂くが、数が多い。
フェルナは矢を放つ。
「飛燕撃ち!」
矢が風を切り、コウモリの翼を貫いた。
アリアは息を整え、一歩前へ出る。
「合気は止める剣——来い!」
飛びかかる魔物の動きを体捌きで受け流し、石壁に叩きつけた。
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5.回廊を抜けて
激しい戦いの末、暗闇のコウモリたちは散り散りに逃げ去った。
耳鳴りが残る中、ルーンが震える声で言った。
「……大丈夫。バディも無事」
オリビエは剣を収め、天井を見上げる。
「仕掛けと魔物、二重の罠か。やはりここは……人を拒む迷宮だ」
シャルルは記録をとりながら頷く。
「だが突破できた。進めるということだ」
アリアは剣に手を置き、仲間を見回した。
「第二階層、突破。まだ始まりに過ぎないが——皆なら行ける」
松明の灯が回廊を照らし、彼らの影を長く伸ばしていた。
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(夏編 第二話・了)




