春編 第二話 芽吹きの舞 ― 花の精霊と誓い
1.祭りの続き
火皿に揺れる花影が、広場を幻想的に照らしていた。
子どもたちは輪になって踊り、リマはその中心でゆるやかな舞を導く。
バロスは太鼓を叩き、イザベラは「新発明の花火玉!」と叫んで小さな光を夜空へ散らした。
「ウヒョー! 咲いたぞ!」
空に浮かぶ光の花に、子どもたちが歓声を上げる。
アリアは広場の端からその様子を見つめ、心に静かな安堵を覚えていた。
(冬の病も火も越えて……こうして笑える。春を迎えられたんだ)
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2.精霊の問い
花の精霊は再び姿を現し、花びらのように光を散らしながらアリアに近づいた。
「芽吹きは祝うだけでなく、育てるもの。
問おう、〈アリアンロッド〉の子らよ——芽吹いた命をどう守る」
人々は静まり返った。
オリビエが剣を杖にしながら口を開く。
「剣ではなく、心で守る。病には薬を、火には秩序を。そして芽吹きには……支えを」
シャルルは帳面を広げ、筆を走らせる。
「芽吹きの芽は記録に残す。どこに生え、誰が水をやり、いつ花をつけるか。
忘れれば枯れる。覚えていれば育つ」
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3.子どもたちの誓い
ヨーデルが手を挙げた。
「質問! 花はどうやったら元気に育つの?」
精霊は微笑み、子どもたちに答えた。
「歌と水と、手をかける心」
リマが子どもたちの背を押し、声を導く。
「じゃあ皆で——誓いを歌いましょう」
小さな合唱が始まる。
「水をやるよ 皆でやるよ
芽吹いた花は 皆の花」
シルはその輪を見守り、フェルナは風で花びらを優しく舞わせた。
ルーンはバディの首を撫でながら囁く。
「大丈夫。花も命も、皆で守れる」
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4.祝福の光
精霊は輪の歌を聞き、両手を広げた。
「良き誓い。ならば祝福を与えよう」
光の花びらが舞い降り、芽吹き始めた木々の蕾を一斉に開かせた。
広場の周囲に、春の花が咲き誇る。
子どもたちが歓声を上げ、リマが微笑み、アリアは胸に手を当てた。
「——ありがとう。芽吹きの誓い、忘れません」
精霊は静かに頷き、夜空の星の中へと消えていった。
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5.未来への兆し
祭りの終わり。焚き火を囲んで皆が食事を分け合う。
ピピが帳面を見て声を張る。
「花の冠、子ども三十! 花皿の火、七つ! ぜんぶ記録完了!」
ハルトは横で新しい板に刻みを加え、誇らしげに笑った。
「芽吹きの祭り、記しました!」
シャルルが頷き、短く言葉を添える。
「良い帳は、未来の橋になる」
アリアは焚き火を見つめ、心に決意を宿した。
(春は始まったばかり。この街も、この橋も、もっと育っていく)
夜空に咲いた花の残光が、いつまでも街を照らしていた。
(春編 第二話・了)




