冬編 第七話(幕間) 雪の台所と灯の当番
1.雪の夜
雪は昼から降り続き、街をすっかり白で覆っていた。
広場の焚き火は赤々と燃え、輪を描くように人々を照らしている。
当番制の見張りはこの夜、ハルトとヨーデル、そしてシルの三人だった。
「静かだな……」
ハルトが吐いた息は白く、星のように散った。
「冬は静かだから好き。でも……ちょっと怖い」
ヨーデルが毛布にくるまりながら小声で言った。
シルは屋根の上からひらりと降り、耳を立てて雪の音を聞き取る。
「静かなほど、音がよく分かる。——だから守れる」
頼もしい声に、二人は安心したように頷いた。
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2.雪の台所
広場の端、調理小屋ではバロスとイザベラが並んでいた。
「冬でもな、工夫次第で旨いもんは作れる!」
バロスが鍋を振ると、中からじゅわっと肉と根菜の香りが広がる。
「じゃーん! 新発明の“雪冷却装置”! 外の雪を取り込んで、保存庫を二重に冷やすのよ!」
イザベラは胸を張り、蒸気を逃す管を見せた。子どもたちが「ウヒョー!」と拍手を送る。
「でも、調子に乗って凍らせすぎないでね」
リマが注意すると、イザベラは舌を出して笑った。
ピピは帳面を見ながら声を張る。
「今夜の配分は……子どもは汁を二杯、大人は一杯半! 病み上がりの子には蜂蜜を少し足す!」
数字を読み上げる姿は、すっかり倉庫係の顔だった。
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3.灯の当番
焚き火のそばでは、子どもたちが交代で薪を入れていた。
「薪は三本。多すぎたら煙が出る、少なすぎたら火が弱る」
リマの教えを復唱しながら、慎重に火を見守る。
「歌にしたら覚えやすいんだよ!」
ヨーデルが即興で歌い始め、子どもたちも声を合わせた。
「三本だけ、三本だけ、火は皆の灯〜」
雪に包まれた夜の街に、小さな合唱が広がる。
遠くの獣人の集落から来ていた若者が耳を澄まし、思わず呟いた。
「……ここは、灯が消えない」
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4.記録の稽古
鐘楼の下。ハルトは膝に板を置き、黙々と刻みを続けていた。
「……降雪:強。薪:三本追加。火の旗:白」
シャルルが隣に座り、静かに指導する。
「良い。短い言葉で、誰が読んでも分かるように」
「はい!」
書き終えた板を掲げると、シルが屋根から覗き込んだ。
「抜け、なし」
一言の確認に、ハルトの顔は誇らしさでいっぱいになった。
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5.夜更けの輪
やがて見張りの交代の鐘が鳴り、広場には新しい当番が集まる。
鍋の匂いはまだ残り、焚き火は赤々と燃えている。
アリアはその光景を見渡し、胸に温かなものを覚えた。
(病を越え、火を越え……こうして皆で支え合う夜がある。——春は遠くない)
雪は静かに降り続き、焚き火の灯は強くも弱くもなく、街をちょうどよく包んでいた。
(幕間・了)




