夏編 第一話 夢の予兆とヨゴリィ再会
女神と精霊王の夢
その夜、アリアは不思議な夢を見た。
波の音が響き、月明かりの下で海が広がっている。
そこに現れたのは、海の女神イケと精霊王メルニーナ。
イケは穏やかな声で告げる。
「水は命を育むが、時に街を試す。水辺に気をつけなさい」
メルニーナは透きとおる瞳でアリアを見つめ、微笑んだ。
「流れは新たな縁を運ぶ。近く、かつての仲間の血がここに訪れるだろう」
アリアははっと目を覚ました。
「……女神と精霊王……そして仲間の血……?」
不安と期待が入り混じる胸の高鳴りを抑えられなかった。
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水辺に現れた人魚
翌日、川の水位が増し、街の人々は少し不安げに堰の補強をしていた。
アリアも様子を見に川辺に赴いたその時——
「アリア、お久しぶり〜!」
水面を割って、銀色の髪を揺らす人魚が現れた。
約10年ぶりの再会。かつて共に旅した人魚、ヨゴリィだった。
「本当に町を作っちゃったんだ! あの二人の言ってた通り! スゴ〜い!」
にこやかな声と仕草に、アリアは思わず笑みを返す。
「ヨゴリィ……! 無事で何よりです。まさかここで会えるとは」
子どもたちが「人魚だ!」「きれい!」と歓声を上げ、ルーンとトット、バディも驚いた様子で見つめていた。
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ナーサイのこと
川辺で一息ついたヨゴリィは、ふっと表情を改めて口を開いた。
「そうそう、大事な話があるんだ。……うちのお母さん、ナーサイのこと」
アリアは思わず背筋を正した。
かつて邪神と戦った仲間、その名を聞いて胸に熱が込み上げる。
「母さん、今は魚人の王ジレンの後継者として、海の民を導いてるんだよ。
次のリーダーになるのは、ほぼ決まりみたい」
「……ナーサイが……!」
アリアは感慨をこめて呟いた。
「かつて共に剣を振るった仲間の血が、今は海の民を導く……」
ヨゴリィはにかっと笑った。
「だから、海の民もこれから大きく動くと思う。あんたの街と仲良くしていきたいんだ」
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シャルルとの語らい
ヨゴリィが水へと戻った後、アリアはシャルルと共に広場を歩いた。
「……シャルル。あなたはどう思いますか」
「海の民との縁、ですか」
シャルルは顎に手を当て、冷静に答えた。
「アリアンロッドは人間以外の民との共生を基盤にしています。
ゴブリンや獣人に続き、海の民とも結べるなら、それは大きな力になる。
交易も文化も、そして安全保障にも」
アリアは力強く頷いた。
「ええ。ナーサイ、そしてヨゴリィ……かつての仲間とその縁を、今につなげたい。
アリアンロッドは海の民とも共に歩んでいきたいのです」
その言葉にシャルルは微笑み、記録の帳面を閉じた。
「ならば道を整えましょう。これが、未来への国交の始まりです」
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新たな夏の幕開け
その夜、アリアは再び夢を見る。
海の女神イケと精霊王メルニーナが、波間に並んで微笑んでいた。
「陸と海の絆は、やがて必要になる」
「忘れるな、アリア。流れは止められぬ」
目を覚ましたアリアは、窓の外の月明かりを見上げ、小さく呟いた。
「ヨゴリィ、ナーサイ……必ず、この縁を守ります」
こうして夏の幕は、新たな交流と希望を乗せて開かれた。
(つづく)




