春編 第一話 春を迎える準備 ― 雪解けと芽吹き
雪解けの朝
冬の終わり、魔境の小さな町に柔らかな陽射しが差し込んだ。
雪は少しずつ溶け、川の水が勢いを増している。
子どもたちは雪解けの小川で小さな水車を回し、歓声を上げた。
「春だ! もうすぐ春が来る!」
ヨーデルが跳ね回り、マキシが笑う。
「よし、畑を耕す準備だな!」
リマは慎重に苗床を整え、フェルナは杖を振って水の流れを導いた。
「芽を守るために、流れを穏やかにしましょう」
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芽吹きの兆し
シルが森を歩いていると、小さな芽を見つけた。
「……出てきた」
子どもたちを呼ぶと、皆が目を輝かせた。
「緑だ!」「かわいい!」
カテリーナが微笑んで説明する。
「芽は弱いの。寒さや風で簡単に折れてしまう。だから皆で守らなきゃいけないの」
オリビエが頷く。
「実りは一人の力では得られぬ。分け合ってこそ次の季節に繋がる」
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大地の精霊の声
夕暮れ、畑のそばに柔らかな光が現れた。
現れたのは大地の精霊。衣は土と若草ででき、声は大地の響きそのもの。
「芽は始まり。だが未熟。守らねば凍える夜に消える」
アリアは前に出て、真っ直ぐに言葉を返した。
「街のみんなで芽を守ります。冬を越えたように、春も共に越えます」
精霊は頷き、芽に手をかざした。
「ならば春を迎える支度を整えよ。灯りと舞で花精霊を呼ぶのだ」
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共同作業
その日から街は大忙しとなった。
•バロスは畑の柵を作り直し、ピピは保存食を点検。
•リマは子どもたちに「芽吹きの舞」を教え、シルは護衛を務める。
•フェルナは雪解けの水を導き、カテリーナは薬草を植える。
•マリーヌは春祭りに使う布を仕立て、イザベラは「芽吹き増幅装置」と称する怪しい器具を作り出して大騒ぎ。
ヨーデルは走り回りながら帳面に書き込んだ。
「春の支度! 芽吹き! 祭り! 花精霊!」
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春への誓い
夜、焚き火を囲んで人々が集まった。
オリビエが静かに告げる。
「冬を越えられたのは灯りを分け合ったから。春も同じだ。芽吹きを皆で守ろう」
シャルルが記録を閉じ、言葉を添える。
「芽は未来。未来は心を揃えた者に宿る」
皆が声をそろえた。
「はい!」
その声は星空へと昇り、芽吹きの夜風に乗って街を包んだ。
(つづく)




