冬編 第二話
冬の精霊との出会い ― 雪と闇の試練
白銀の森
雪が深く降り積もり、魔境の周囲は白銀の世界に変わっていた。
空は鉛色に沈み、森の奥は静まり返っている。
シルが耳を立て、低く呟いた。
「……音がない」
フェルナが頷く。
「雪が全てを覆っている。これが冬の闇よ」
子どもたちは外に出たがったが、リマが首を振った。
「今日は駄目。外は危うい気配がある」
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闇の訪れ
その夜、街の灯火がふっと揺れた。
焚き火の炎が小さくなり、氷のような冷気が漂う。
「……来たな」オリビエが剣に手をかける。
空から白い雪片が渦を巻いて落ち、やがて人の形を取った。
それは冬の精霊。
髪は雪、衣は氷、瞳は闇そのもの。
声は冷たく響いた。
「冬は命を閉ざす季節。心を閉ざす者は、やがて闇に呑まれる」
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精霊の試練
精霊は広場を吹雪で包み込んだ。
子どもたちの声がかき消され、目の前すら見えなくなる。
「散るな!」オリビエが叫ぶが、雪の壁が皆を引き離す。
シルは短剣を構え、必死に声を張る。
「こっちだ! 離れるな!」
だが視界は闇。
リマは子どもたちを抱き寄せ、フェルナは魔法で灯火を保とうとしたが、風に消されてしまう。
「どうすれば……」ヨーデルが泣きそうな声を上げる。
シャルルが冷静に叫んだ。
「声を合わせろ! 互いの名を呼び合うんだ!」
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声を重ねる
「アリア!」
「シル!」
「リマ!」
「ヨーデル!」
次々に名が呼ばれ、声が闇を裂いて重なっていく。
フェルナが最後に杖を掲げ、風を操った。
「風よ、道を繋げ!」
吹雪がわずかに晴れ、皆の姿が一つの輪に戻った。
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冬の精霊の言葉
輪の中心に、再び冬の精霊が現れた。
「……よい。名を呼び合い、心を閉ざさぬならば、闇も越えられる」
その瞳にわずかな光が灯る。
「冬は厳しい。だが、分け合い、寄り添い、声を重ねるなら——命は続く」
精霊は雪片となって消え、静けさだけが残った。
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焚き火の輪
広場に戻ると、バロスが慌てて焚き火を強めた。
「冷え切ってるだろ、ほら座れ!」
イザベラは毛布をかけながら「湯気装置を持ってくればよかった!」と相変わらずの調子。
オリビエは焚き火を見つめ、静かに言った。
「冬の試練は孤独を試す。だが、我らは一人ではない」
アリアは仲間を見回し、真っ直ぐに頷いた。
「声を重ねて、冬を越えよう」
人々の輪に再び笑いが戻り、炎は闇を払い続けた。
(幕)




