冬編 第一話 イザベラの家での冬支度
暖かな工房
雪がちらつき始めた晩、アリアたちはイザベラの工房に集まっていた。
窓の外は冷たい風が唸っているが、中は炉の火が赤々と燃え、葡萄酒の香りが漂っている。
「ほらアリアちゃん、こっちに座んなさい!」
イザベラは相変わらずの調子で、アリアの肩をがしっと掴んだ。
「今日は特製の“加熱式酒器”でワインを温めてやるから!」
炉の上に奇妙な器具が乗せられていた。筒から湯気が立ち、葡萄酒の壺をじわじわ温めている。
「爆発しないでしょうね……?」フェルナが眉をひそめる。
「爆発したら面白いでしょ!」イザベラはけろりと笑った。
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仲間たちの団らん
バロスはすでに杯を傾け、豪快に笑っている。
「くぅ〜、体に染みる! イザベラ、こりゃ冬の必需品だ!」
マリーヌは笑みを浮かべ、椅子に優雅に腰掛けていた。
「ふふ、アリアったらまだ子供の顔をして飲んでるわね」
「こ、子供じゃありません!」アリアは頬を赤らめて反論するが、杯を持つ手は少しぎこちない。
シルは暖炉のそばで耳を揺らしながらパンをかじり、リマは子どもたちに毛布を掛け直していた。
ヨーデルは「どうして酒を温めると美味しくなるの!?」と質問攻めにし、シャルルは淡々と「香りが立つからだ」と答えて帳面に記録する。
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冬の準備の話
オリビエが杯を置き、真剣な声で言った。
「冬は嵐より厳しい。食と火を絶やさぬよう、計画を立てねばならん」
ピピが帳面を抱えて頷く。
「倉庫の備蓄は大丈夫! でも燃料は少し心配だよ!」
「木材は俺が集める!」とマキシが拳を上げ、ハルトも「訓練の合間に運ぶ!」と続いた。
フェルナは窓の外を見て、静かに呟く。
「風が強い……。精霊たちも、冬の試練を告げているのかもしれない」
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小さな爆発
その時、イザベラの器具が「ボンッ!」と音を立て、湯気を派手に吹き出した。
「きゃあっ!」子どもたちが驚いて飛び退く。
「大丈夫、大丈夫! ちょっと圧を間違えただけ!」
イザベラは全く動じず、手際よく弁を締め直す。
マリーヌは口元に手を当ててくすくす笑った。
「相変わらず騒がしいわね。でも、この街には必要な賑わいだわ」
アリアは溜息をつきつつも、温まった葡萄酒を口に含んだ。
ほんのり甘く、体の芯まで温まる。
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冬の幕開け
外では雪がしんしんと降り積もり、白銀の世界が広がり始めていた。
オリビエが焚き火を見つめ、低く呟く。
「冬は病と飢えと闇をもたらす。だが心を揃えれば、必ず越えられる」
その言葉に皆が頷き、杯を掲げた。
「冬を越えよう。分け合い、支え合って」
焚き火の火がぱちぱちと爆ぜ、工房に笑い声と歌声が広がった。
こうしてアリアンロッドの冬が、温かな団らんの中で幕を開けた。
(つづく)




