表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

341/666

春の小冒険 第二話 交易の始まり

森に現れた訪問者


花祭壇を作った翌日、アリアンロッドの広場に見慣れぬ影が現れた。

背に大きな荷を背負い、毛並みの立派な狼獣人の男が先頭に立っている。その後ろには猫耳や熊耳を持つ仲間たちが数名。

「……これは驚いた。こんな大きな街が森の奥にあるとは」


広場にいた子どもたちが一斉に駆け戻り、「獣人だ! 知らない人たちが来た!」と叫んだ。

すぐにオリビエが前に出て剣の柄に手を置く。

「ご用件は?」


狼獣人は両手を挙げ、落ち着いた声で答えた。

「争う気はない。私は交易を生業とする商人だ。花の香りに導かれてここに来た。もしよければ品を見せたい」


フェルナが静かに観察し、シルは狼耳をぴくりと動かした。

「……嘘ではない」



獣人たちの品


彼らは荷を広げた。

•厚い 毛皮 ……まだ春先、夜の寒さを防ぐのに最適。

•森の奥でしか採れない 香草 ……料理や薬に役立つ。

•小さな 鉄鉱石の塊 ……鍛冶師が喜ぶ素材。


「これは……」バロスが目を輝かせた。

「良い鉄だ! これなら武器でも農具でも、何でも作れる!」


カテリーナは香草の束を手に取り、香りを確かめる。

「薬にも茶にもなるわ。とても貴重」


リマは毛皮を広げ、子どもたちに掛けてやった。

「肌触りが柔らかい……これなら病弱な者でも寒さに耐えられる」


ピピは帳面を広げ、目をきらきら輝かせる。

「これ全部と交換できるものを考えなきゃ!」



アリアンロッドの返礼


「我らが差し出せるのは何か?」とオリビエが問う。

フェルナが微笑んだ。

「干した果実、蜂蜜、保存食。それに水路で作った清らかな水」


ピピが数を確認する。

「干し果実は樽に三つ、蜂蜜は壺が五つ! 交換できる分は十分ある!」


マキシは果実を一つ差し出し、獣人商人に食べさせた。

「うまい!」と驚く声が返る。

「これほど甘いものは、私たちの集落にはない」



契約の杯


話し合いの末、双方が納得できる条件が整った。

オリビエが厳かに言う。

「争わず、分け合う。それがこの街の決まりだ」


その言葉に応えるように、シルと小妖精たちが花を編み込み、小さな杯を飾った。

「これを“契約の杯”に」フェルナが告げる。


獣人の商人は深く頷き、杯を受け取った。

「これからは春ごとに訪れよう。この街と我らの村は、互いに支え合う友だ」


ヨーデルは目を輝かせて叫ぶ。

「質問! 次はどんな品を持ってきてくれるの!? 毛皮? 石? それとももっとすごい宝物!?」

「それは次の春のお楽しみだな」商人は笑った。



新しい絆


宴のようなにぎわいの中、毛皮が広場を温め、香草の香りが漂った。

鉄鉱石はバロスの手で輝く道具に変わるだろう。

そして干した果実や蜂蜜は獣人たちの集落で、春のごちそうになるに違いない。


オリビエが最後に言葉を結んだ。

「今日を忘れるな。交易はただの取引ではない。互いの命を支え合う約束だ」


花精霊の香りを残した春風が広場を駆け抜け、アリアンロッドに新しい絆の証を運んでいった。


(春の小冒険・完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ