表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

336/666

幕間 冬祭りの灯り

準備の朝


冬の〈魔鏡〉は、朝から静かな雪に包まれていた。

広場ではすでにゴブリンたちが雪を固めて灯籠を作り始めている。ピピが鼻をひくつかせ、手際よく雪を丸めていた。

「こっちは甘味屋台の準備もあるからね! 雪団子に苔粉糖をまぶして出すんだ!」


シルは子どもたちと一緒に雪を積み上げ、飾りをつけていた。狼耳をぴくりと動かし、笑顔で子どもたちを手伝う。

「上の方は危ない。わたしがやる」

木登りの要領で軽やかに積み上げ、雪灯籠の窓を空けると「わぁ!」と歓声があがった。


バロスは大きな氷塊に向かってハンマーを構えた。

「見てろよ! 今年は“竜の像”を仕上げてやる!」

氷を削るたび、きらきらと光が散る。ヨーデルがすかさず質問する。

「どうして削ると光るの? 氷は透明なのに!」

「細かい傷に光が反射するんだ!」

「なるほど!」


フェルナは氷の中に光の魔法を仕込んでいた。

「灯籠の火が届かないところも、魔法の光で照らすの。青い光は氷と相性がいいのよ」


リマは子どもたちに踊りを教え、カテリーナは薬草を煮込んで温かい茶を配る。

「甘いだけじゃなく、体を温める香りをね」


オリビエは広場の中央で全体を見渡し、雪かきを手伝う若者たちに声をかけていた。

「足元に気をつけろ。転んで怪我をすれば、祭りどころではなくなる」



祭りの始まり


日が傾きはじめると、雪灯籠に次々と火がともされた。

白い雪が橙に染まり、氷の竜の像は青白く輝く。

「すごい……」リマが息をのむ。

「おお、立派なものだ」オリビエも感嘆の声をあげた。


子どもたちは雪合戦に夢中で、マキシが率先して盛り上げていた。

「こっちに投げろ! 盾はリマが受けてくれるぞ!」

リマは仕方なさそうに盾を構え、子どもたちの雪玉を受け止めて笑う。


カテリーナは「薬草酒」と「薬草茶」を並べ、大人たちが列を作っている。

「体が芯から温まるわよ」

「こりゃありがたい」バロスが一杯あおって笑った。


ピピの屋台は長蛇の列。

「一人二個まで! ……いや、三個まで!」

結局、甘味を分けすぎて「在庫が減っちゃった!」と慌てる姿に、周りは大笑いした。



小さな出来事


氷の竜の像の前で、ふわりと冷たい風が舞った。

「また来たのか……」フェルナが気づく。

そこには雪精霊が浮かんでいた。前に氷室を揺らした、あの小さな存在だ。


「壊さないでね」シルが真剣な目を向けると、雪精霊は首を振った。

「今日は壊さない。みんなと遊びたい」


雪精霊は氷の竜に触れ、ほんの少し揺らした。すると竜の目がきらりと光り、灯籠の光が反射して広場いっぱいに散った。

「わぁ!」子どもたちが声を上げ、氷の竜はまるで生きているように輝いた。


ヨーデルはすかさず手を挙げる。

「質問! 光を操れるのはどうして!?」

雪精霊はにこにこしながら答えた。

「氷は光を集める。わたしが少し動かすと、光は跳ねる」

ヨーデルは興奮してノートを広げ、夢中で書き込んだ。



夜のクライマックス


夜になると、雪灯籠が一斉に輝き出した。氷の竜の像も、雪精霊の加減でまばゆく光る。

「すごい……まるで星が降ってきたみたい」リマがつぶやく。

「これが冬祭りか!」マキシが拳を握る。


フェルナが弓を手に取り、弦を軽く鳴らすと、それが合図のように歌が始まった。子どもたちの声、大人たちの声が混ざり合い、雪に反響する。


雪精霊はその輪に入り、小さく舞い踊った。

「この光が春を呼ぶ」精霊が囁くと、焚き火の火が高く燃え上がった。



締め


祭りの最後、オリビエが声を上げる。

「春はまだ遠い。だが、こうして灯りを囲めば寒さも恐れることはない」

皆がうなずき、杯を掲げた。


カテリーナは薬草茶を注ぎ、リマは笑顔で子どもたちを抱き寄せた。

シルとフェルナは並んで灯籠を眺め、バロスは氷の竜に満足げに腕を組む。

マキシとヨーデルは最後まで雪合戦を続け、ピピは帳面に「祭り、大成功!」と大きく書き込んだ。


雪精霊は最後に小さく手を振り、雪の粒となって夜空へ溶けていった。


冬は厳しい。けれど、灯りと笑い声があれば越えていける。

春を待つ気持ちは、もうアリアンロッド全体に広がっていた。


(幕)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ