中国太極拳留学編 第8話 修了編
一週間の滞在は、あっという間に過ぎた。
朝は山の霧の中で呼吸を整え、日中は型と組手に励み、夜は村の人々と囲炉裏を囲む。
リリスにとってすべてが新鮮で、心と体に深く刻まれていった。
最終日の朝。道場の中庭で、老師がリリスを呼び寄せる。
弟子たちが静かに見守る中、老師はゆっくりと彼女の前に立った。
「リリス。お前は短い時の中で、よく学んだ。大地の声を聞き、風と共に在る術を知った」
老師の瞳がやさしく細められる。
「だが、これはまだ芽にすぎぬ。芽を育て、やがて森となすのは、お前自身の道だ」
リリスは胸に拳を当て、深く頭を下げた。
「はい。この身に刻んだ学びを、必ず育てます。富山の家でも、精霊たちと共に……」
老師は微笑み、掌をそっと彼女の肩に置いた。
「心を澄ませば、遠き地にあっても気は繋がる。お前の歩みを、ここから祈っていよう」
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その日の夕刻、村人たちが門の前に集まり、リリスを見送った。
子どもたちが「また来てね!」と手を振り、門弟たちが力強く頷く。
リリスは振り返り、深く一礼した。
「本当に……ありがとうございました」
風が優しく吹き抜け、衣の裾を揺らした。
――まるで、この山そのものが彼女の旅立ちを祝福しているかのように。
こうしてリリスの中国での一週間は幕を閉じた。
胸に芽生えた“流す力”を抱きながら、彼女は再び富山へと帰っていく。




