新たな旅立ちの決意
アリアは18歳になっていた。騎士団に入団してわずか3年で、彼女はすでに副団長という要職に就いていた。幼い頃から騎士の道を歩み、その剣の腕も、戦術眼も、誰もが認める才覚を持っていた。
アリアの活躍は、王国内だけでなく近隣の国々にも知れ渡り、誰もが彼女の輝かしい未来を信じて疑わなかった。
しかし、アリアの心は、満たされていなかった。
3年前、妹の病を治すため、一人で旅に出た経験が、アリアの心に深い根を張っていた。
海の女神と出会い、邪神を討伐し、東の国でたくさんの仲間たちと出会い、革命を成し遂げた。
故郷を離れ、外の世界に触れたことで、アリアは、自分の中に未知の世界への強い憧れを抱くようになったのだ。
騎士団での日々は、訓練と事務作業の繰り返し。剣を振るたび、書類に目を通すたび、アリアの心には東の国で出会った仲間たちの顔が浮かび上がった。ヨーデルの屈託のない笑顔、オリビエの温かい眼差し、シャルルの知的な言葉、イザベラの奇想天外な発想、ルラの豪快な笑い声、マリーヌの不気味な笑み、ヨハネスの不器用な優しさ。彼らとの旅は、アリアにとってかけがえのない宝物だった。
「…このまま、ここにいて…私は…本当に…満足できるのだろうか…」
アリアは自問自答を繰り返していた。騎士としてこの国を守ることは、幼い頃からの夢だった。しかし、外の世界を知ってしまった今、その夢だけではアリアの心は満たされなくなっていた。故郷の平和を守るという使命と、外の世界を旅したいという願望。二つの相反する感情が、アリアの心の中で渦巻いていた。
そして、ある日、アリアの心の中でその願望が爆発した。
アリアは騎士団長に、退職願を提出した。騎士団長は、アリアの突然の行動に驚きを隠せない。
「…アリア…どういうことだ…? お前は…この国の…希望だぞ…?」
騎士団長の言葉に、アリアは深く頭を下げた。
「…団長…申し訳ありません。ですが…私は…このままでは…いけないんです…」
アリアは騎士団長モールに、自分の胸の内を正直に話した。騎士団長モールは黙ってその話を聞き、全てを理解したように静かに言った。
「…わかった。お前の決意は固いようだな。だが…一つだけ…約束してくれ」
「…はい」
「…もし…お前が…この国のために…戦ってくれる時が来たら…その時は…必ず…戻ってきてくれ…」
騎士団長モールの言葉に、アリアは涙を流した。
「…はい! 団長…ありがとうございます!」
アリアは騎士団長モールに深々と頭を下げ、騎士団を後にした。
アリアの退職は、すぐに家族や親友たちの耳にも入った。元、騎士団長の父は厳しい顔をしていたが、何も言わなかった。ただ、一振りの剣を手渡した。
「…この剣は…お前が…幼い頃…父さんのために…作ってくれた剣だ。この剣を…持っていきなさい」
その言葉に、アリアは涙を流した。
母はアリアの旅立ちを悲しんだ。
「…アリア…本当に…行ってしまうの…?」
アリアは母に優しく微笑んだ。
「…お母さん…私は…必ず…帰ってくるから。だから…泣かないで…」
妹のビアは、アリアの旅立ちを喜んでくれた。
「…お姉ちゃん! 頑張ってね! 私は…お姉ちゃんが…帰ってくるのを…待ってるから!」
親友のハンスとマルグリッドも、アリアの旅立ちを見送ってくれた。ハンスはアリアのために新しい剣を作ってくれた。
「…アリア! この剣は…俺が…お前のために…作った剣だ。この剣を持って…旅に出な!」
マルグリッドはアリアのためにたくさんのパンを焼いてくれた。
「…アリア! お腹が空いたら…これを…食べてね! 私の…気持ちだから…!」
そして旅立ちの日。アリアは故郷の街を静かに見つめた。この街で、たくさんの人たちと出会い、思い出を作った。この街で、自分は騎士として成長した。
「…さようなら…みんな…」
アリアはそう呟き、故郷の街を後にした。期待と不安が入り混じる心だったが、彼女は後ろを振り返らなかった。心の中には、外の世界への強い憧れが渦巻いていた。
アリアの新たな旅が、今、始まる。
広大な草原を一人歩くアリアの心は、解放感に満ち溢れていた。騎士団での規律に縛られることもなく、自分の好きなように旅をすることができる。アリアは草原に咲く花をそっと撫でた。
その時、アリアの目の前に一人の老人が現れた。ボロボロのローブをまとい、顔には深い皺が刻まれている。老人はアリアをじっと見つめ、静かに言った。
「…お嬢さん…旅の者かね…?」
「…はい。そうです。あなたは…?」
アリアの問いに、老人はにこやかに微笑んだ。
「…私は…ただの…旅の老人だよ。だが…お嬢さんに…一つ…忠告しておこう」
老人の言葉に、アリアは眉をひそめた。
「…この世界の…闇は…お前が…思っている以上に…深い…」
アリアは言葉を失った。
「…闇…?」
「…そうだ。この世界には…邪悪な魔物が…たくさんいる。そして…その魔物たちを…操る者が…いる…」
アリアの心はざわついた。東の国での出来事を彷彿とさせる言葉だった。
「…その…操る者とは…?」
老人は首を横に振った。
「…それは…私にも…わからない。ただ…その者は…お前のことを…狙っている…」
「…なぜ…私が…狙われているんですか…?」
「…それは…お前が…勇者だからだ」
勇者。その言葉はアリアの心に強く響いた。
「…私が…勇者…?」
「…そうだ。お前は…この世界の…闇を…晴らすための…光だ。だから…その者は…お前を…消そうと…している…」
アリアは恐怖を感じた。しかし、すぐにその恐怖を打ち消した。
自分はもう、幼い頃のアリアではない。騎士だ。弱き者を守るのが、騎士の使命だ。
「…ありがとうございます。ですが…私は…負けません。私は…この世界の…闇を…晴らしてみせます!」
アリアはそう言って、老人に深々と頭を下げた。老人はアリアの言葉に微笑み、風のように消えていった。
老人が消えた場所に立ち尽くすアリアの心には、新たな決意が芽生えていた。自分の旅は、ただの旅ではない。この世界の闇を晴らすための戦いだ。
この世界の人々のために……アリアは一人、広大な世界へと旅に出るのだった。
騎士としての輝かしい未来を捨て、新たな旅に出ることを決意したアリア。故郷の温かい見送りを胸に、彼女は広大な世界へと一歩を踏み出しました。
この物語は、安定した日々の中で、心の奥底に燃え続ける情熱に気づき、勇気を持って新たな道を選ぶことの尊さを描いています。また、謎の老人との出会いは、アリアの旅が個人的なものではなく、世界全体の命運をかけた戦いへと繋がっていくことを示唆しています。
アリアがこれからどのような試練に立ち向かい、どんな仲間と出会っていくのか。彼女の物語は、ここからが本当の始まりです。
この続きの物語は、読者の皆さんの心の中で、自由に描いていただければ幸いです。




