商店街を歩けば
翌日の昼下がり。
「ねえ、一緒に行こ!」
愛菜がアリアたちを誘った。
指さす先は、徒歩30分ほど歩いたのち、坂を下った先に続く細い道。
そこには木製の看板が並び、人の声と香ばしい匂いが漂ってくる。
「……なんだ? 人がいっぱい集まってる……」
レンが目を輝かせる。
「町の集落……いや、交易の広場か?」
ガレンが剣を携えながら唸る。
「これは……市場……?」
ミリアが小声で呟いた。
愛菜は胸を張って言う。
「うん! 商店街だよ!」
意味は伝わらない。
けれどその明るい声につられ、アリアたちは歩みを進めた。
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■ 見知らぬ視線
商店街に足を踏み入れた瞬間。
「うわぁ、外国の人や!」
「なんやなんや、珍しい顔ぶれやちゃ!」
地元の人々の声が一斉に上がった。
アリアたちは足を止め、居心地悪そうに互いを見やる。
「……見られてる」
リリスが眉を寄せる。
しかし悪意はなく、どの顔も好奇心に満ちていた。
その優しげな眼差しに、アリアは胸を撫で下ろした。
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■ コロッケとの遭遇
「お嬢ちゃんら、これ食べてみらっしゃい!」
元気な声で呼び止めたのは肉屋のおじさんだった。
油の香りが立ちのぼる袋を差し出してくる。
愛菜が笑顔で両手を振る。
「大丈夫大丈夫! これ、コロッケ!」
アリアたちは恐る恐る袋を受け取った。
揚げたての熱を指先に感じ、口に運ぶと――
「……!! う、美味しいっ!」
レンが目を丸くする。
「外はかりかり、中はふわふわ……! なんという技術……!」
ミリアも頬を赤らめる。
ガレンは豪快にかぶりつき、口の周りを油で光らせた。
「うおお! これは戦のあとに食いたいやつだ!」
おじさんは笑い声を上げる。
「気に入ったか? また来るがいいちゃ!」
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■ 甘味の衝撃
次に足を止めたのは和菓子屋だった。
「はい、これおまんじゅう。試してみられ」
女将さんが白い餅を切り分けて差し出す。
アリアは一口。
「……甘い……! 柔らかい雲みたい」
ミリアも口を押さえて感嘆する。
「砂糖……? いや、それだけじゃない……」
「ふふ、それは羽二重餅やちゃ。富山の名物なんよ」
女将さんはにこやかに答えた。
意味は分からずとも、その声音の優しさが心に響く。
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■ 八百屋のおじさん
さらに進むと、色鮮やかな野菜が山と積まれていた。
八百屋のおじさんが声を掛ける。
「いやぁ、異国の人やけど、礼儀正しいなぁ」
アリアたちは深く頭を下げる。
言葉はなくとも、その仕草に心がこもっていた。
「……ありがとう、って言いたいんやろ?」
おじさんは優しく笑う。
「うんうん、分かるがいね。伝わっとるちゃ」
アリアたちはその意味を理解できない。
けれど、自分たちの想いが通じた気がして胸が熱くなる。
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■ 温もりの商店街
帰り道、アリアはふと立ち止まった。
見上げた空は青く澄み、商店街の人々の笑い声が風に溶けていく。
「……不思議ね」
彼女は仲間に語りかけた。
「言葉は違うのに、私たち……少しだけ、この町に受け入れられた気がする」
ルナも小さく頷く。
「うん……まるで昔からここにいたみたい」
その隣で愛菜は何も分からぬまま「えへへ」と笑っていた。
けれど、その笑顔こそが何よりも大切な“橋”になっているのだと、アリアは感じていた。
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こうして、彼女たちの「日本の日常」は、また一歩進んでいった。
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◆あとがきメモ
•商店街での「地元の温かさ」と「異世界人の戸惑い」を対比。
•コロッケ→羽二重餅→八百屋と、富山らしさを散りばめ。
•ラストで「言葉を越えた交流」のテーマを強調。




