奇妙な宿と忍び寄る影
夜の闇が、森を深く覆い尽くしていた。屋敷の中は、漆黒の闇に包まれ、わずかに差し込む月明かりが、不気味な影を床に落としている。
アリアたちは、疲労から深い眠りについていた。しかし、その静寂を破るように、カツン、カツン、と、どこからか、微かな足音が聞こえてきた。
その音は、まるで、硬い木製の足が、床を叩くような音だ。その音は、最初は遠くから聞こえていたが、徐々に、一行が寝ている部屋に近づいてくる。
アリアは、その音に、微かに意識を覚醒させた。彼女の身体は、眠っているはずなのに、何かが、おかしいと、本能的に感じ取っていた。
カツン、カツン。
足音は、部屋の扉の前で、ぴたりと止まった。そして、ギィィィ……と、扉が、ゆっくりと開く音がした。
アリアは、恐怖で身体が硬直し、目を開けることができない。心臓が、ドクドクと、激しい音を立てて、脈打っている。
部屋の中に、何かが、入ってきた。
その何かは、ゆっくりと、ベッドの方へと、近づいてくる。
「ヒッヒッヒ……。いい匂いがするなぁ……。お前たち、人間ども……」
その何かは、不気味な声で、そう囁いた。
アリアは、意を決して、目を開けた。
そこに立っていたのは、宿の主人だった。しかし、彼の姿は、昼間とは、まるで違う。
彼の顔は、ひどく痩せ細り、その目は、血のように赤く光っている。その口からは、鋭い牙が覗き、その身体は、まるで、木でできた人形のように、関節が、カクカクと、不自然に動いている。
「お前たち……。俺の、新しい、コレクションになってくれるかい……?」
宿の主人は、そう言って、アリアに向かって、手を伸ばした。その手は、まるで、枯れ木の枝のように、細く、長く、伸びている。
「うわああああああ!」
アリアは、悲鳴を上げ、ベッドから飛び起きた。
その悲鳴に、ガレンとリリス、ボリスとルナも、目を覚ました。
「な、なんだ!?何が起きたんだ!?」
ガレンは、目を覚ますと、宿の主人の姿を見て、驚きに目を見開いた。
「お前……!一体、何者だ!?」
ガレンは、怒りに震え、戦斧を構えようとした。しかし、その時、ガレンの身体に、激しい痛みが走った。
「ぐっ……!身体が、動かない……!」
ガレンは、苦しそうに、うめき声を上げる。
「これは、俺が作った、特別な人形だ。お前たち、人間どもは、この人形の、餌になってくれるかい……?」
宿の主人は、そう言って、ニヤニヤと笑った。
アリアは、宿の主人の言葉を聞き、部屋の中を見渡した。
そこには、いくつもの、不気味な人形が、飾られていた。それらの人形は、どれも、人間の姿をしており、その目には、生気が宿っていなかった。
「まさか……。この屋敷は、呪われているのか……?」
ルナは、恐怖で震える声で、そう呟いた。
「おい、アリア!どうするんだ!?このままじゃ、俺たち、こいつの餌にされちまう!」
ガレンは、焦りの表情を浮かべる。
「大丈夫!みんな、落ち着いて!まずは、この男を、倒すわ!」
アリアは、剣を構え、宿の主人に襲いかかった。
しかし、宿の主人は、俊敏な動きで、アリアの攻撃をかわし、アリアの身体に、爪を立てた。
「ぐっ……!」
アリアは、苦しそうに、うめき声を上げる。
「無駄だ。俺は、もう、人間じゃない。俺は、この屋敷の、一部なんだからな……」
宿の主人は、そう言って、高らかに笑った。
その時、リリスが、弓を構え、宿の主人に、矢を放った。
矢は、宿の主人の頭に命中したが、矢は、まるで、岩に当たったかのように、弾き飛ばされてしまった。
「な、なんだと……!?」
リリスは、驚きに目を見開く。
「ヒッヒッヒ……。無駄だ、無駄だ!俺は、もう、死んでいるんだからな!」
宿の主人は、そう言って、ニヤニヤと笑った。
その時、ボリスが、回復魔法を、ガレンにかけた。
「ガレン、大丈夫かい!?僕の魔法で、君の傷を、治してあげるからね!」
ボリスは、そう言って、ガレンの身体に、緑色の光を放った。
しかし、ガレンの身体は、回復するどころか、さらに、痛みが、増していく。
「ぐううううう……!なんだ、この魔法は……!?」
ガレンは、苦しそうに、うめき声を上げる。
「ヒッヒッヒ……。この屋敷の中では、お前たちの魔法は、すべて、俺の力に変わるんだよ……!」
宿の主人は、そう言って、高らかに笑った。
その時、ルナが、アリアに話しかけた。
「アリア、この屋敷は、魔力の根源を吸い上げているわ。このままでは、私たち、みんな、やられてしまうわ……」
ルナの言葉に、アリアは、絶望的な表情を浮かべた。
「どうすればいいんだ……!?」
アリアは、焦りの表情を浮かべる。
「この屋敷の、魔力の根源を、断ち切るしかない。この屋敷のどこかに、魔力の根源があるはずよ……」
ルナは、そう言って、部屋の中を見回した。
「魔力の根源……?どこにあるんだ!?」
アリアは、ルナに尋ねる。
「わからない……。でも、きっと、この部屋の中にあるはずよ……」
ルナは、そう言って、部屋の隅にある、古びた鏡を指差した。
「あの鏡……。もしかしたら、あの鏡が、魔力の根源なのかもしれない……」
ルナは、そう言って、鏡に向かって、手を伸ばした。
その時、宿の主人が、ルナに向かって、襲いかかった。
「邪魔だ!俺の邪魔をするな!」
宿の主人は、そう叫び、ルナに、手を伸ばした。
「ルナ!危ない!」
アリアは、ルナに駆け寄ろうとしたが、宿の主人の手が、ルナの首に、巻き付いた。
「ぐっ……!」
ルナは、苦しそうに、うめき声を上げる。
「さあ、お前も、俺の、コレクションになってくれ……」
宿の主人は、そう言って、ニヤニヤと笑った。
その時、ガレンが、渾身の力で、宿の主人を、殴りつけた。
「てめえ!俺の仲間を、好き勝手にするなんて、絶対に許さねえ!」
ガレンは、そう叫び、宿の主人を、壁に叩きつけた。
宿の主人は、ガレンの一撃に、吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!この、化け物め……!」
宿の主人は、苦しそうに、うめき声を上げる。
その隙に、アリアは、ルナを助け出し、ルナは、苦しそうに咳き込んだ。
「ルナ、大丈夫!?」
アリアは、ルナの背中を優しくさする。
「大丈夫……。早く、あの鏡を、壊して……!」
ルナは、震える声で、アリアにそう言った。
アリアは、ルナの言葉を聞き、剣を構え、鏡に向かって、走り出した。
その時、宿の主人が、再び、アリアの前に立ちはだかった。
「お前は、この屋敷から、逃げられない。お前も、俺の、コレクションになるんだからな……」
宿の主人は、そう言って、アリアに、襲いかかった。
しかし、アリアは、宿の主人の攻撃をかわし、鏡に向かって、剣を振り下ろした。
ガチャン!
剣は、鏡に命中し、鏡は、粉々に砕け散った。
鏡が砕けると、宿の主人は、苦しそうにうめき声を上げ、その場に倒れ込んだ。
「ぐあああああああ!」
宿の主人は、そう叫び、身体が、ゆっくりと、木の人形へと、変わっていく。
「やった……!勝ったんだ……!」
エリオットが、嬉しそうに叫んだ。
宿の主人が、木の人形へと変わると、部屋の雰囲気は、一変した。部屋を覆っていた闇が消え去り、月の光が、部屋全体を照らす。
アリアは、その場に、へたり込んだ。彼女の身体は、疲労困憊で、もう、一歩も動けない。
「アリア、大丈夫!?」
ガレンは、アリアに駆け寄り、アリアの身体を優しく支える。
「ああ……。なんとか、大丈夫よ……」
アリアは、そう言って、ガレンに、微笑んだ。
「でも、どうして、あの鏡が、魔力の根源だったんだ?」
エリオットが、不思議そうに尋ねる。
「あの鏡は、この屋敷の、魂を映し出す鏡だったの。だから、あの鏡が、この屋敷の魔力の根源だったのよ……」
ルナは、そう言って、粉々になった鏡の破片を見つめた。
その時、アリアは、鏡の破片の中に、小さなメモが、挟まっているのを見つけた。
「なんだ、これ……?」
アリアは、メモを拾い上げ、読み始めた。
そこには、この屋敷の主人が、なぜ、このような姿になったのか、その悲しい物語が、書かれていた。
彼は、愛する妻を、病気で亡くした。彼は、妻を蘇らせるため、禁断の魔法に手を出した。しかし、魔法は失敗し、彼は、妻の魂を、鏡の中に閉じ込めてしまった。そして、彼の身体も、木の人形へと変わってしまったのだ。
「そんな……。悲しい物語だったのね……」
アリアは、メモを読み終え、涙を流した。
「アリア、もう、大丈夫だよ。あの男も、もう、苦しむことはないから……」
ガレンは、アリアの頭を優しく撫でる。
「うん……」
アリアは、ガレンの言葉に、静かに頷いた。
そして、一行は、夜が明けるまで、その屋敷で、夜を明かすことにした。
呪いからの解放と新たな道
太陽が昇り、朝の光が、屋敷全体を照らす頃、一行は、屋敷を後にした。
屋敷の外観は、まだ、古びていたが、もう、あの時の、不気味な雰囲気は、消え去っていた。
「これで、この屋敷も、呪いから解放されたのね……」
ルナは、そう言って、屋敷を振り返った。
「ああ。もう、あの男も、苦しむことはないだろう」
ガレンは、静かに頷いた。
「でも、あの宿の主人……。もし、私たちが、あのメモを見つけられなかったら、どうなっていたんだろう?」
エリオットが、不安そうに尋ねる。
「きっと、私たちが、彼の、新しい、コレクションになっていたでしょうね……」
リリスは、静かにそう言った。
「もう、大丈夫だよ。みんなで、力を合わせて、あの呪いを、打ち破ることができたんだから!」
ボリスは、そう言って、みんなを励ます。
「うん!ボリスの言う通りだね!」
レンとミリアは、ボリスの言葉に、元気を取り戻したように、笑顔を見せた。
アリアは、みんなの笑顔を見て、安堵の息を吐き出した。
「さあ、みんな。次の町へ、出発しましょう」
アリアは、そう言って、新たな旅路へと、歩き出した。
彼らの旅は、これからも、様々な困難が待ち受けているだろう。しかし、彼らには、どんな困難も乗り越えられる、固い絆がある。
アリアたちは、一体、どのような結末を迎えるのだろうか。




