旅の道すがらと幼き声
ユカから異世界転移の真実と、勇者たちの卑劣な現状を聞かされたアリアと仲間たちは、新たな決意を胸に、旅を続けていた。町を後にし、一行は広大な街道を歩いている。
「ユカ先生の話を聞いて、また、あの勇者たちのことが頭から離れない……」
レンが、不安そうな声で呟く。
「大丈夫だよ、レン。もう、あんな奴らに、僕たちは負けないからね!」
ボリスは、いつものように明るい声で、レンとミリアを励ます。
「それに、ユカ先生の教え子たち……。私たちが、必ず、彼らの暴走を止めてみせるわ」
アリアは、力強い眼差しで、前を見据える。彼女の心には、正義の炎が燃え上がっていた。
その時、一行の耳に、か細い声が聞こえてきた。
「買って……買ってくださーい……」
声のする方を振り返ると、そこには、ボロボロの服を着た、幼い子供たちが、路上に座り込み、小さな木彫りの人形を売っていた。彼らの手足は、ひどく痩せ細り、その目には、生気が宿っていなかった。
「かわいそうに……」
ミリアが、子供たちの姿を見て、胸を痛める。
「おい、お前たち、なんでこんなところで、こんなことをしているんだ?」
ガレンが、子供たちに話しかける。
「僕たち、孤児なんです……。孤児院に、ご飯を、買わないといけないから……」
子供の一人が、震える声で答える。
「孤児院……?」
アリアは、子供たちの言葉に、眉をひそめた。
「その孤児院は、どこにあるんだい?」
ボリスが、優しく子供たちに尋ねる。
「町の、外れの方に……」
子供は、力なく、そう答えた。
アリアは、子供たちの手から、木彫りの人形を、すべて買い取ると、彼らに、温かいパンと水を渡した。
「これを食べて。それから、今日は、もう、孤児院に戻りなさい。日が暮れてしまうわ」
アリアは、優しく子供たちに告げる。
「ありがとう……ありがとう、お姉さん……!」
子供たちは、アリアの言葉に、涙を流しながら、パンを貪るように食べた。
子供たちと別れた後、アリアと仲間たちは、孤児院に向かうことにした。
「どうして、あんな幼い子供たちが、こんなことを……。孤児院の院長は、何をしているんだ?」
ガレンは、怒りに震える。
「きっと、何か裏があるわ。あの子供たちの様子は、尋常じゃなかった」
リリスは、鋭い眼差しで、静かに呟く。
「子供たちが、みんな、同じ孤児院出身だというのも、気になりますね……」
ユカも、アリアたちの旅に同行しており、この出来事を見て、不安そうな表情を浮かべていた。
孤児院は、町の外れにある、古びた建物だった。周囲には、雑草が生い茂り、窓ガラスは、ひどく汚れている。
「本当に、ここが孤児院なのか……?」
レンが、怯えたように、ミリアの手を握る。
一行が、孤児院の門をくぐると、そこには、一人の女性が立っていた。彼女は、いかにも厳格そうな顔をしており、その目には、冷たい光が宿っている。
「どなたですか?ここは、孤児院です。用事のない方は、お帰りください」
女性は、アリアたちに、冷たく言い放った。彼女が、この孤児院の院長、ヘンリエッタだった。
「私たちは、旅の者です。あなたの孤児院の子供たちが、町で、モノを売っていました。その様子が、あまりにも酷いので、様子を見に来ました」
アリアは、冷静な声で、ヘンリエッタに告げる。
「ふん。子供たちが、自ら進んで、働いているだけです。あなたたちには、関係ありません」
ヘンリエッタは、アリアの言葉に、鼻で笑った。
「自ら進んで、だと?あんなに怯えた顔をして、働いている子供たちを、見たことがない!」
ガレンは、怒りに震える。
「あなたたちの孤児院は、子供たちに、まともな食事も与えていないようですね」
ルナが、静かにヘンリエッタに告げる。
「何を言ってるんですか!私たちは、子供たちに、最高の食事と、最高の教育を与えています!」
ヘンリエッタは、顔を真っ赤にして、否定する。
「ならば、孤児院の中を、見せていただけますね?子供たちの様子を、この目で、確認したい」
アリアは、ヘンリエッタに、そう告げた。
ヘンリエッタは、アリアの言葉に、一瞬、戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに、冷たい笑みを浮かべた。
「いいでしょう。どうぞ、中へ。ただし、勝手な行動は、許しませんよ」
ヘンリエッタは、そう言って、アリアたちを、孤児院の中へと通した。
孤児院の中は、外見と同じく、ひどく荒廃していた。埃っぽい空気と、カビ臭い匂いが、一行を襲う。
子供たちは、皆、痩せ細り、その目には、生気が宿っていなかった。
「こんなひどい環境で……!」
ボリスは、子供たちの姿を見て、胸を痛める。
「ユカ先生、この孤児院の子供たちは、おかしいと思いませんか?」
アリアは、ユカに尋ねる。
「はい。まるで、誰かに、精神的に操られているようです……」
ユカは、不安な表情で、そう答えた。
その時、アリアは、孤児院の奥から、ヘンリエッタが、何者かと、密談している声を聞いた。
「あの子供たちは、もう、使い物にならない……。新しい子供たちを、もっと、早く、連れてこい!」
ヘンリエッタは、怒りに満ちた声で、そう叫んでいた。
「わかったわ。この孤児院は、闇の組織と繋がっている。子供たちを、何らかの取引の道具にしているのよ」
アリアは、ヘンリエッタの言葉を聞き、確信した。
闇の取引とアリアの正義
アリアと仲間たちは、孤児院を後にし、町に戻った。彼らの心には、子供たちを救うという、強い決意が燃え上がっていた。
「ヘンリエッタ院長は、きっと、子供たちを、闇の組織に売り渡しているんだ……」
ガレンは、怒りに震える。
「ああ。あの子供たちの様子は、まるで、奴隷のようだった」
リリスは、静かに呟く。
「許せない……!絶対に、あんなひどいことを、許してはいけない!」
レンは、怒りに満ちた声で叫ぶ。
「そうだね。だから、私たちは、子供たちを救うために、戦うんだ!」
ボリスは、レンの頭を優しく撫でる。
「まずは、ヘンリエッタ院長と、闇の組織の取引の現場を押さえる必要があるわ」
アリアは、冷静に作戦を立てる。
「どうやって?闇の組織の取引なんて、簡単には、見つけられないぞ」
エリオットが、不安そうにアリアに尋ねる。
「大丈夫。私には、考えがある」
アリアは、不敵な笑みを浮かべた。
アリアは、ユカに、ヘンリエッタ院長の行動を、監視するように頼んだ。ユカは、以前、教師をしていた経験から、子供たちの行動を予測する能力に長けている。
「ヘンリエッタ院長は、きっと、夜、孤児院を抜け出すはずです。その時が、チャンスです!」
ユカは、そう言って、ヘンリエッタ院長の行動を、監視し始めた。
そして、その夜。ユカの言葉通り、ヘンリエッタ院長は、こっそりと孤児院を抜け出した。
「アリア、今です!ヘンリエッタ院長が、孤児院を抜け出しました!」
ユカは、アリアに、そう報告した。
「よし!みんな、行くわよ!」
アリアは、剣を構え、ヘンリエッタ院長の後を追った。
ヘンリエッタ院長は、町の外れにある、廃墟へと向かっていった。廃墟の中には、闇の組織の構成員たちが、集まっていた。
「ヘンリエッタ院長、子供たちは、連れてきたんだろうな?」
闇の組織のリーダーが、ヘンリエッタ院長に、そう尋ねる。
「もちろんです。これが、今日の子供たちです」
ヘンリエッタ院長は、子供たちを、闇の組織のリーダーに差し出した。
子供たちは、怯えた顔で、闇の組織の構成員たちを見つめている。
「よくやった。これで、しばらくは、金に困ることはないだろう」
闇の組織のリーダーは、そう言って、ヘンリエッタ院長に、金の袋を渡した。
その時、アリアが、廃墟の中に、堂々と姿を現した。
「ヘンリエッタ院長!その子供たちを、今すぐ、解放しなさい!」
アリアは、力強い声で、そう叫んだ。
「な、なんだと!?」
ヘンリエッタ院長と、闇の組織の構成員たちは、驚きに目を見開いた。
「てめえ!なんだ、その女は!とっとと、つまみ出せ!」
闇の組織のリーダーは、アリアに、そう叫ぶ。
しかし、アリアは、怯むことなく、剣を構えた。
「私は、正義の剣を持つ、女騎士アリア。お前たちの、悪行を、ここで、終わらせる!」
アリアは、そう叫び、闇の組織の構成員たちに、襲いかかった。
ガレンは、巨大な戦斧を振り回し、闇の組織の構成員たちを、次々と、打ち倒していく。リリスは、正確無比な弓で、闇の組織の構成員たちの動きを封じていく。ボリスは、回復魔法で、アリアたちの傷を癒やす。ルナは、風魔法で、闇の組織の構成員たちを、吹き飛ばしていく。
「風弾!!」
そして、エリオットは、ボリスとユカと共に、子供たちを、安全な場所へと誘導していた。
「怖くないよ、みんな。もう、大丈夫だからね」
ユカは、子供たちを優しく抱きしめ、安心させる。
「ボリスたちも、きっと、みんなを、守ってくれるよ!」
エリオットは、そう言って、子供たちを励ます。
子供たちは、ユカとエリオットの言葉に、少しだけ、笑顔を取り戻した。
アリアは、闇の組織のリーダーと、一対一で、戦っていた。
「くそっ!なんで、こんな女が……!」
リーダーは、アリアの強さに、焦りの表情を浮かべる。
「お前たちのような、卑劣な人間は、この世界に、必要ない!」
アリアは、そう叫び、リーダーに、渾身の一撃を加えた。
リーダーは、アリアの一撃に、吹き飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
「ぐっ……!この、化け物め……!」
リーダーは、苦しそうにうめき声を上げる。
「ヘンリエッタ院長!もう、あなたの悪行は、みんなが知っている。大人しく、投降なさい!」
アリアは、ヘンリエッタ院長に、そう告げた。
ヘンリエッタ院長は、アリアの言葉に、観念したように、項垂れた。
こうして、アリアと仲間たちは、孤児院の子供たちを救い出し、闇の組織を、壊滅させることができた。
救出と新たな旅立ち
夜が明け、太陽が昇る頃、アリアと仲間たちは、孤児院の子供たちを、町の役場に連れて行った。
町の役場の職員は、アリアたちの話を聞き、孤児院の真実を知ると、驚きと怒りを露わにした。
「まさか……。あのヘンリエッタ院長が、そんなことを……」
町の役場の職員は、信じられない、という表情を浮かべる。
「この子供たちを、どうか、安全な場所で、保護してあげてください」
アリアは、町の役場の職員に、そう頼んだ。
「もちろんです!あなたたちには、感謝してもしきれません!」
町の役場の職員は、アリアに、何度も頭を下げた。
そして、ユカは、子供たちを、新しい孤児院へと、案内することになった。
「ユカ先生、ありがとうございました。子供たちのことを、お願いします」
アリアは、ユカに、そう告げる。
「はい!アリアさんたちのおかげで、子供たちは、救われました。本当に、ありがとうございます!」
ユカは、涙を流しながら、アリアに、そう言った。
「ユカ先生、元気でな!いつか、また、会おうぜ!」
ガレンは、ユカに、そう言って、手を振る。
「ありがとう、ガレンさん!みんなも、元気でね!」
ユカは、そう言って、子供たちと共に、新しい孤児院へと、向かっていった。
こうして、アリアと仲間たちは、孤児院の子供たちを救い出し、ユカと別れを告げ、再び、旅路を歩み始めた。彼らの旅は、これからも、正義と勇気を胸に、続いていく。




