海の章 ― 第4話「海を裂く剣」
◆決戦の始まり
轟音と共に、巨体のサメが甲板を叩き割った。
牙の間から海水がほとばしり、乗客の悲鳴が夜に響く。
「ぐわああっ!」
また一人、甲板の兵士が海へ引きずり込まれる。
血の泡が赤く広がった。
「くそっ……やるしかねえ!」
レンは震えながらも槍を構えた。
「兄ちゃん!」
ミリアが短弓を引き絞り、矢を連射する。
ボリスは聖印を掲げ、轟然と祈祷を唱えた。
「光よ! 海を鎮め、この船を守れ!」
波が一瞬だけ静まり、船体の傾きが弱まる。
エリオットは甲板に死霊の影を呼び、黒い足場を海面に渡す。
「行け。奴を近づけさせるな」
アリアは剣を抜き、船首へ歩み出た。
真顔のまま、低く呟く。
「……沈ませない」
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◆戦いの渦中
サメが海中から跳ね上がり、甲板を狙って突進する。
レンとミリアの攻撃はわずかに鱗を裂くが、致命傷には至らない。
「全然効かねえ!」レンが叫ぶ。
「硬すぎるよ……!」ミリアが涙目で矢を放つ。
死霊の影がサメの体を絡め取ろうとするが、巨体の力で引きちぎられる。
「やはり……ただの生物ではない」
エリオットが冷ややかに言う。
ボリスの祈祷が再び輝き、海を鎮めるが――
「長くはもたんぞ!」
サメが再び牙を剥き、船を丸ごと呑み込もうと迫った。
⸻
◆海を裂く剣
その瞬間。
アリアが船首から飛び出した。
「……古の聖剣よ」
剣が淡く光を帯び、海風が一瞬止まる。
彼女は宙を駆けるように足場を蹴り、巨大なサメの顎の前に躍り出た。
「――海を裂け」
振り下ろされた一閃は、夜の海をまっすぐに割った。
轟音と共に白い飛沫が舞い、サメの巨体は光に呑まれ、断ち切られるように海中へ沈んだ。
波が引き、甲板に静けさが戻る。
ただ遠くで、サメの咆哮がかすかに木霊し、やがて消えた。
⸻
◆終わりと余韻
船上に歓声が響く。
「助かった!」
「英雄だ!」
「生きて帰れるぞ!」
レンはへたり込み、「アリア姉ちゃん、やっぱすげえ……」と呟き、
ミリアは涙を拭って「よかった……」と笑った。
ボリスは酒樽を掲げ、「乾杯じゃあ!」と叫び、
エリオットは濡れた髪を払って、「……まだ沈んでいない。それで十分です」と言った。
アリアは真顔のまま剣を収め、拾った“掃除用ほうき”を船首に立てかけて呟いた。
「……ほうきでも、戦えたかもしれない」
「「「「絶対無理だ!!」」」」
夜の海風が吹き抜け、船は無事に港へ向かって進み始めた。
(海の章 完)




