海の章 ― 第2話「人喰いサメの影」
◆出航
翌朝。
港町の空は青く澄み、海風が心地よかった。
豪華客船「エル・マリーナ号」は白い帆を張り、出航の鐘を高らかに鳴らす。
「うおおお! すげぇー!」
レンは甲板で走り回り、手すりから海を覗き込んで大興奮。
ミリアは潮風に目を細め、
「海って……こんなに広いんだね……」と感嘆の声を上げた。
ボリスはさっそく船の酒場に腰を据え、樽から直接ぐびぐび。
エリオットは甲板の隅で本を開き、無表情のまま「揺れる」と呟いた。
アリアは船首に立ち、真顔で水平線を見つめる。
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◆宴と余興
昼過ぎ、船内では宴が開かれた。
楽団の演奏に合わせて乗客が踊り、料理や酒がふるまわれる。
レンは調子に乗って出し物に参加。
「ここで俺の“海の歌”を!」
――が、音痴すぎて会場は静まり返り、最後はミリアが引きずって退場。
ボリスは腕相撲大会に乱入し、船員たちを次々なぎ倒して大歓声を浴びる。
「ぬはは! 神の加護じゃ!」
エリオットはなぜか「魚占い」をして子供に囲まれ、
「この鱗は……死を連想させますね」
と真顔で言って泣かせ、親に怒られていた。
アリアは料理を口に運び、真顔で一言。
「……食べられる」
それだけで周囲の人々は爆笑し、彼女の無自覚な人気は急上昇だった。
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◆不穏な衝撃
だが夕刻。
宴の最中、突然船体が大きく揺れた。
「うわっ!?」
「なんだ!? 暴風か!?」
グラスが割れ、料理が床に散らばる。
甲板に駆け上がると、海面に黒い影が走っていた。
巨大な背びれが波間を切り裂き、船底を叩く重い音が響く。
「ドォン……! ドォン……!」
レンは顔を青ざめさせ、
「な、なあ……あれって……」
ミリアは怯えてアリアのマントを掴み、
「いや……サメ……?」
ボリスは酒瓶を置き、険しい目で唸る。
「馬鹿でかい……並のサメではあるまい」
エリオットは目を細め、
「……魔に汚染された個体。普通ではない」
アリアは剣に手をかけ、真顔で呟いた。
「……鐘は鳴った」
海が大きく割れ、赤黒い巨影が牙を剥いて浮上する――
(つづく)




