商人ギルドの福引
◆賑わう市場
港町近くの交易都市。
石畳の広場は人でごった返し、商人ギルド主催の大イベントが行われていた。
「さあさあ! 年に一度の大福引大会だ! 豪華景品を手にするのは誰だ!?」
太鼓が鳴り響き、広場の真ん中に置かれた巨大な抽選箱に、人々の列ができていた。
レンは目を輝かせて拳を握る。
「よし! 俺もやる!」
ミリアも「わたしもやりたい!」と兄の袖を引く。
ボリスは「酒樽が当たるならぜひじゃな」と鼻を鳴らし、
エリオットは「時間の浪費ですが……まあ、付き合います」と冷静に列へ。
アリアはただ真顔で頷いた。
「……行こう」
⸻
◆レンの涙
最初に挑戦したレン。
がらがらぽん、と出てきた玉は――白玉。
「はずれー!」
「な、なんだよ! もう一回!」
二回目も白玉。三回目も白玉。
「ぐおおお! なんで俺だけ!」
レンは頭を抱えて地面に崩れ落ち、ミリアが慌てて背をさする。
「お兄ちゃん……くじ運なさすぎ……」
⸻
◆みんなの景品
次はミリア。
がらがらぽん。
「ピンク玉! 四等! 可愛い髪飾り!」
「やった!」
ミリアは嬉しそうに髪飾りをつけ、笑顔を見せた。
次にボリス。
がらがらぽん。
「赤玉! 二等! 酒樽一樽!」
「ふぉっふぉっふぉ! 神は我を見捨てておらん!」
ボリスは樽を抱えて大笑いし、周囲の人々から拍手が起きる。
そしてエリオット。
がらがらぽん。
「金玉! 一等! 宝箱の中身は豪華金貨!」
「……」
無表情で宝箱を受け取り、
「重い。後で換金します」
とあっさり言って場を凍らせた。
⸻
◆アリアの番
最後にアリア。
がらがらぽん。
「青玉! 五等! ……掃除用ほうき!」
「「「……ほうき!?」」」
レンは「なんだそれー!」と叫び、
ミリアは「外れよりひどい……」と肩を落とし、
ボリスは「武器にもならんじゃろ」と笑い、
エリオットは「まあ、墓の掃除には」とさらり。
だがアリアはほうきを手に取り、じっと見つめた。
そして真顔で一言。
「……軽い。扱いやすい」
「「「「気に入ったのかよ!!」」」」
⸻
◆伏線
そのとき、群衆の中から歓声が上がった。
「やったぞ! 俺が当てたのは特賞、豪華客船の乗船券だ!」
町人が飛び跳ねて喜ぶ。
だが周囲の人々がざわめいた。
「でも聞いたか? 海に“人喰いサメ”が出るって噂だ……」
「観光どころじゃないだろ……」
アリアはほうきを肩に担ぎ、真顔で呟いた。
「……人喰いサメ、か」
仲間たちは顔を見合わせ、なんとも言えぬ予感に襲われた。
(商人ギルドの福引 完)




