槍の始まり編 第1話「槍を託されて」
◆悩める少年
山道を抜け、小さな村へ続く街道を歩く一行。
アリアの隣を歩くレンは、剣の柄を握りしめながら浮かない顔をしていた。
「……やっぱり俺、剣向いてないんじゃないか」
「またそれか」ミリアが呆れ顔をする。
「昨日のゴブリンだって、アリアさんが倒さなきゃ危なかったんだぞ」
「ちっ……」レンは唇をかむ。
「少年、焦るでない」ボリスが笑う。
「武器は相性じゃ。剣が駄目なら別を試せばよい」
「ふむ……無理に剣に固執するのは効率的ではありませんね」エリオットが淡々と付け加える。
「……効率とかじゃなくて、かっこ悪いだけだろ」レンは肩を落とした。
アリアは黙って歩いていたが、ふと荷から一本の槍を取り出した。
それは以前、依頼のついでに入手したまま使わずにいた鉄槍だった。
「……これを使ってみろ」
「えっ……俺が?」レンは目を丸くする。
「合うかどうかは、持ってみなければ分からん」アリアは槍を差し出した。
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◆ぎこちない一振り
槍を手に取ったレンは、重さに思わず腕をふらつかせた。
「うわっ……思ったより重っ!」
「握りが甘い。もっと下を持て」アリアが短く指導する。
レンが言われた通りに構えると、少し安定した。
「へえ……なんか、剣よりしっくり来るかも」
「ふむ、長物は間合いが稼げる。未熟でも隙を埋めやすい」エリオットが頷く。
「ただし! 扱いを誤れば仲間を突く。注意せいよ」ボリスが眉をひそめる。
「ちょっと、お兄ちゃん私に向けないでよね!」ミリアが慌てて距離を取った。
「わ、悪い悪い!」レンは冷や汗をかきながら構え直した。
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◆初めての実戦
ちょうどその時、森の茂みから数匹のコボルトが飛び出してきた。
「おい、敵だ!」レンが叫び、アリアが剣を構える。
「試してみろ」アリアが短く命じる。
「わ、分かった!」
レンは震える手で槍を突き出した。
ぎこちない動きだったが、勢いに押されたコボルトが一歩退いた。
その隙にアリアが横合いから斬り払い、ボリスが盾で押し返し、エリオットが呪文で動きを封じる。
「お兄ちゃん、やるじゃん!」ミリアの声に、レンの顔がぱっと明るくなる。
最後の一匹が逃げ去ると、アリアは短く告げた。
「……悪くない」
「えっ、ほんとに?」
「武器が選んだのだ。大事にしろ」
レンは驚きと喜びの入り混じった表情で槍を抱え込んだ。
その姿を、ボリスは嬉しそうに、エリオットは興味深げに眺めていた。
(第1話・了)




