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女騎士の独り旅!  作者: 和泉發仙


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運河の街の光と影

前書き

海の底で邪神を討伐し、光を取り戻した女騎士アリアは、妹を救うという使命を胸に、再び旅に出ました。これまでの旅路で、彼女は様々な文化や人々と出会い、世界が自分の知っていた王国の常識だけでは測れない、もっと広く、奥深いものだと気づかされました。しかし、新たな旅の舞台である東の国、低地国家シッケベッナンゲンに到着したアリアを待ち受けていたのは、思わぬ試練でした。

この物語は、活気に満ちた美しい街で、予期せぬ困難に直面したアリアが、どのように立ち上がり、再び希望を見出すのかを描きます。彼女は、旅の資金と唯一の手がかりを失い、さらに意識を失ってしまいます。絶望的な状況の中で、彼女は誰に助けを求め、どのようにしてこの危機を乗り越えるのでしょうか。そして、この街の光と影、そしてそこに隠された人々の温かさに触れることで、アリアはまた一つ、成長を遂げることになります。


船は、熱帯の太陽が降り注ぐ海域を進み、まず最初に、島々が連なる群島国家カイルアに立ち寄った。そこは、透き通るようなエメラルドグリーンの海に囲まれた、楽園のような場所だった。

白い砂浜には、色鮮やかな花をつけた木々が立ち並び、甘い果物の香りが風に乗って漂ってくる。人々は、レイと呼ばれる花飾りを身につけ、ウクレレの陽気な音色に合わせて踊っていた。アリアは、そこで初めて見る光景に、心を奪われた。

「お姉さん、これ、あげるよ!」

一人の少女が、アリアにプルメリアの花で作られたレイを差し出した。少女の屈託のない笑顔に、アリアは思わず微笑み返す。

「ありがとう…とても綺麗だ!」

アリアは、そのレイを首にかけてもらった。故郷の厳格な雰囲気とは全く違う、カイルアの人々の温かさに、彼女の心は少しずつ解きほぐされていくようだった。彼女は、ここで、カネやマノア、そして、頑なだった漁師のカイといった人々との交流を通じて、心の豊かさ、そして、悲しみを乗り越える強さについて深く学ぶことになった。

次に船が向かったのは、巨大な火山を信仰する**「アティ」という島だった。島全体が熱気に満ちており、人々は黒い溶岩でできた家で暮らしていた。彼らは、火山を「神の息吹」と呼び、噴火を恐れるどころか、恵みとして受け入れていた。アリアは、そこで信仰心がいかに人々の心を強くするのかを目の当たりにする。彼らは皆、活気に満ち、力強かった。彼女は、この島で、島の戦士カハナや、長老カマレ**、そして生贄として捧げられようとしていた少女マリエラとの出会いを通じて、信仰の光と影、そして真の勇気とは何かを深く考えさせられた。

カイルアでの穏やかな時間、アティでの力強い人々の姿。さまざまな文化や人々との出会いは、アリアの世界を広げてくれた。そして、彼女は一つの真実に気づかされる。世界は、自分の知っていた王国の常識だけでは測れない、もっと広く、もっと奥深いものなのだと。

数週間後、船は目的地である東の国、低地国家シッケベッナンゲンの港に到着した。

「いよいよ…」

甲板から見下ろす街並みは、アリアの想像を遥かに超えていた。無数の運河が街を網目のように巡り、その両岸には、レンガ造りの色鮮やかな家々が立ち並んでいる。風車がゆっくりと大きな羽根を回し、まるでこの街の鼓動を刻んでいるかのようだった。空気は湿っていて、海の匂いと、甘く香ばしいパン、そして、どこからともなく漂ってくる花の香りが混じり合っていた。

「ここが、東の国…」

アリアは胸を高鳴らせながら、船を降りた。港には、様々な国の商船がひしめき合い、活気に満ち溢れていた。色とりどりの民族衣装を身につけた人々が行き交い、耳慣れない言葉が飛び交っている。アリアは、この街のエネルギーに圧倒されながらも、どこか心惹かれるものを感じていた。

港から一歩街へ足を踏み入れると、そこはまさに別世界だった。石畳の道には、馬車や人々が行き交い、運河には小舟がのんびりと進んでいく。道沿いの店先には、色とりどりの花が飾られ、街全体が巨大な庭園のようにも見えた。シッケベッナンゲンは、世界有数の花卉輸出国だという話は聞いていたが、これほどまでとは。

アリアは、荷物を背負い、人々の流れに沿って歩き出した。旅の途中で手に入れた、少しばかりのお金と、東の国へ向かうための地図を、しっかりと胸に抱えている。

「ふう…」

少し歩き疲れたアリアは、運河にかかる小さな橋の上で足を止めた。運河には、たくさんのチューリップが植えられた小舟が浮かんでいて、その美しさに目を奪われた。彼女の心は、故郷から遠く離れたこの場所で、少しずつ安らぎを取り戻していくようだった。

その時、アリアの背後から、不意に誰かに肩をぶつけられた。

「おっと、すまないね、お嬢さん」

男はそう言って、にこやかに謝罪する。見るからに人の良さそうな、太っちょの男だった。アリアは「いえ」と答え、特に気に留めることもなく、再び歩き出そうとした。しかし、その瞬間、彼女の背筋に、ぞくりと冷たいものが走った。胸元を触ると、そこには何もなかった。

「まさか…」

慌てて振り返るが、太っちょの男の姿はもうどこにもない。アリアはすぐに、自分がスリに遭ったのだと理解した。旅の資金と、唯一の手がかりである地図。それら全てを盗まれてしまったのだ。

「待て!」

アリアは、男が走り去ったであろう方向へ、必死に駆け出した。人々の間を縫うように、運河沿いの道をひたすら走る。幸いにも、太っちょの男はまだ遠くにはいなかった。

「返せ!! それは私のお金だぞ!!」

アリアの叫び声に、周囲の人々が何事かと振り返る。しかし、誰も彼女を助けようとはしない。それどころか、好奇の目で彼女を見つめている。

男は、細い路地へと逃げ込んだ。アリアも躊躇なくその後を追う。路地は、日差しが届かず薄暗く、生臭い匂いが鼻をついた。運河沿いの華やかな街並みとは、全く違う雰囲気だ。

「はぁ…はぁ…」

路地の奥まで追い詰められた男は、行き止まりで足を止めた。アリアは、息を切らしながら男の前に立つ。

「お金と地図を返して…」

しかし、男は震える声で言った。

「すまない…俺じゃないんだ…」

男の言葉の意味が分からず、アリアは首をかしげる。その時、路地の奥から、複数の男たちが現れた。彼らは、太っちょの男よりも、もっと狡猾で、悪意に満ちた笑みを浮かべている。

「…よくここまで来たな、お嬢ちゃん」

中心にいた、鋭い目つきの男が、不気味な声で言った。太っちょの男は、彼らの仲間だったのだ。アリアは、罠にはめられたのだと気づいた。

「くっ…」

アリアは、いつでも戦えるように身構えた。しかし、彼女が動き出すよりも早く、男の一人が、彼女の顔に何かを振りかけた。

「なっ…!?」

それは、甘い匂いのする液体だった。液体を吸い込むと、アリアの頭が急に重くなる。視界が歪み、足元がふらついた。

「ぐっ…」

彼女は、意識が遠のいていくのを感じた。抵抗する力もなく、その場に崩れ落ちる。

最後に見たのは、男たちの醜悪な笑みだった。アリアの意識は、ゆっくりと闇へと沈んでいった。

アリアの新たな旅は、思わぬ形で困難に直面してしまいました。

彼女は、この絶望的な状況を、どのようにして乗り越えるのでしょうか。


旅の途中で、故郷の常識とはかけ離れた世界を知り、心の安らぎを感じ始めた矢先、アリアは再び、深い闇へと引きずり込まれてしまった。シッケベッナンゲンという異国の地で、旅の資金と唯一の手がかりを失い、意識を奪われた彼女。ここから、彼女の旅路は、これまでのどんな困難よりも過酷なものになるだろう。

妹を救うという強い使命感だけが、彼女を突き動かしてきた。しかし、頼るべき聖剣もなく、見知らぬ土地で孤独に立ち向かうことになった今、アリアは、真の強さとは何かを問われることになる。

果たして、アリアは再び立ち上がることができるのか。そして、彼女を待ち受ける新たな出会いと試練とは。

彼女の物語は、今、本当の幕を開ける。


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