町の人のエピソード ― 鍛冶屋の挑戦
◆町の鍛冶屋
港町へ続く街道沿いの村。
一行が立ち寄った鍛冶屋の前で、やけに威勢のいい声が響いた。
「寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! ついに完成したぞ、最強の剣だ!」
汗まみれの大男、鍛冶屋の親方が、布をかけた長物を誇らしげに抱えている。
村人たちがわらわら集まり、口々に囁いた。
「また始まったぞ……」
「この前は“投げても戻ってくる鉄槌”とか言って、戻らず川に落としたしな……」
アリア一行も足を止めた。
レンが興味津々で身を乗り出す。
「最強の剣だって!? 見てみたい!」
ボリスは渋い顔で腕を組み、
「どうせロクなもんじゃなかろう」
エリオットは無表情で「期待値はゼロです」と断言した。
ミリアは小声で「でもちょっと楽しみかも……」と呟いた。
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◆お披露目
親方が布をばっと取る。
現れたのは――真っ赤に塗られた巨大な剣。
刃には意味不明な宝石がこれでもかと埋め込まれ、
鍔には竜の顔を模した金細工。
そして柄は妙に長く、全体で人の背丈を超えている。
「名付けて――竜滅豪剣・煌煌丸!」
「ダサッ!」
レンが即座に叫んだ。
「名前からして最強感ゼロだろ!」
「すごい……の?」ミリアは首を傾げる。
ボリスは額を押さえ、「こんなもの振るう前に腰を痛めるわ」
エリオットは淡々と「墓碑には立派でしょう」と毒を吐いた。
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◆試し振り
「おい坊主! 試してみるか!」
親方に促され、レンが剣を持ち上げる。
「うおおおっ……!? お、重っ……!!」
顔を真っ赤にしながら剣を振ろうとするが、あまりの重さにバランスを崩し――
「ぎゃあああっ!!」
そのまま転倒。
剣は地面にめり込み、土煙を上げた。
「ほら見ろ、地面すら砕く威力だ!」親方は得意満面。
「違うだろ! 振れなかっただけだ!」レンが涙目で叫ぶ。
ミリアは慌てて兄を支え、ボリスは腹を抱えて笑い、
エリオットは「やはり墓碑です」ともう一度繰り返した。
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◆アリアの評価
「……アリア殿、どう思われます?」
親方が誇らしげに尋ねてきた。
アリアは真顔で剣を一瞥し、柄に手をかけようとした。
しかし――指先で軽く触れただけでやめる。
「……装飾は悪くない」
「「「「それだけ!?」」」」
村人たちはどっと笑い、親方は「ははは……そうか……」と肩を落とした。
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◆結末
その後、煌煌丸は鍛冶屋の店先に“観賞用”として飾られることとなった。
旅立ち際、レンはぶつぶつ言いながら背中をさすり、
ミリアは「宝石だけはきれいだったね」とフォローし、
ボリスは「儂の酒樽の方がよほど役立つ」と笑い、
エリオットは「重量級の悪趣味」と冷淡に評した。
アリアは一言。
「……墓碑には似合う」
「だから墓碑じゃない!!」レンがまたも絶叫するのだった。
(鍛冶屋の挑戦 完




