仮面騒動編 ― 第1話「怪しい仮面」
◆町外れの骨董屋にて
「これなんてどうだ? 見事な品だろう!」
町外れの小さな骨董屋で、店主の老人が取り出したのは、緑がかった木製の仮面だった。
不気味なほど滑らかで、目と口の穴はやけに大きい。
「ただの飾りじゃないのか?」
レンが首をかしげ、ミリアは「ちょっと怖い……」と兄の袖を引いた。
ボリスは腕を組み、「ふむ……どう見ても邪悪な雰囲気はないのぅ。が、妙に禍々しい彫りじゃの」と眉をひそめる。
エリオットは仮面を冷たい目で見つめ、「……嫌な魔力を感じます。これは触らない方がいい」
「ならやめておこう」
アリアはあっさりと切り上げ、店を出ようとした――その時。
「おいおい、安いんだろ? 俺が買ってやるよ!」
偶然居合わせた若い町人が銀貨を出し、仮面を掴み取った。
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◆変貌
「ははっ! こんなの被って何になるってんだ……」
軽口を叩きながら仮面を顔に当てた瞬間――
ぶわっ! と突風が巻き起こり、彼の顔が歪んだ。
「うぉおおっ!?」
次に現れたのは、奇妙な派手な服を纏い、歯をぎらりと光らせた別人のような姿だった。
「イェェーーッハァーー!!」
男は跳ね回り、店の天井を突き破りそうな勢いで踊り出す。
通りに飛び出すと、近くの市民を無理やり引き込んで踊らせ、酒場のテーブルをステージ代わりに歌い出した。
「な、なんだあれは!?」
レンが目を剥き、ミリアは「ひぃっ……」と口を押さえる。
ボリスは胡乱げに顎をさすり、「……神の奇跡ではないのぅ。むしろ悪ふざけの類じゃ」
エリオットは冷徹に断じた。
「……やはり呪物です。触れた者の抑圧された欲望を解き放つ系統の」
アリアは剣に手をかけ、真顔で呟いた。
「……面倒ごとの匂いしかしない」
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◆次々と拡がる混乱
仮面の男は衛兵をあっという間に撒き、跳ね回りながら菓子屋に乱入し、ありったけのパイを頬張った。
「デリシャーーーース!!」
顔をクリームまみれにして踊る姿に、見物人は大爆笑。
だが笑いも束の間、仮面は跳ね飛んで別の青年の顔にぴたりと張り付いた。
「う、うわっ!?」
次の瞬間、気弱そうな青年が美女を口説きまくる軽薄な伊達男へと変貌。
「お嬢さん、月よりも君の方が美しい!」
女性たちが悲鳴をあげ、町は大混乱。
人々が仮面を奪い合い、装着するたびに性格が180度変わる。
「うわーーー!?」
ミリアは慌ててアリアの背に隠れた。
「お姉ちゃん、どうしよう!? みんな変になってる!」
アリアは剣を抜き、冷静に告げた。
「止めるしかない……だが、致死は避ける。鐘は鳴らさせない」
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◆巻き込まれる女騎士
騒ぎの最中、仮面が転がってきて、通りすがりの男の手に吸い付いた。
「へへ……俺もやってみるか」
被った瞬間、派手なマント姿の道化に変貌し、通りにいたアリアの手を掴む。
「レディ! ダンスのお相手を!」
「なっ……!」
アリアは強引に抱え込まれ、ぐるぐると踊り回された。
その真顔と、振り回される姿に周囲は爆笑。
「ア、アリアさんが……!」
レンが半笑いで叫び、ミリアは「お姉ちゃんごめん笑っちゃう!」と必死に口を押さえた。
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町は仮面の力で、かつてない混乱に包まれていった。
次に犠牲になるのは、仲間たちかもしれない。
(つづく)




