山小屋の少女 ― 第2話「山の暮らし」
1 朝の空気
夜明け。
高山の冷気が小屋の隙間から入り込み、息が白く立ち上る。
レンが外に出て大きく伸びをし、桃色の髪が朝日に光った。
「ふぅ、冷えるな。薪を割って暖炉にくべるか」
斧を肩にしたレンを、老人が渋い顔で見送る。
「勝手に触るな……」
そう言いかけたが、手際の良さを見て黙り込んだ。
「……まあ、悪くはない」
ぼそりと呟き、小屋の中へ戻っていく。
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2 それぞれの役割
ミリアはリーナと並び、山羊の世話を始めた。
二人のピンク髪が朝日を浴びて揺れる様は、まるで姉妹のよう。
「ほら、こうやって撫でてあげると喜ぶよ」
「うん……すごい、鳴き声が優しくなった」
老人はその様子をちらりと見て、口を尖らせる。
「……あの子が笑う顔なんて、久しぶりに見た」
だが、すぐに咳払いをして背を向けた。
ボリスは老人の腰に気づき、祈祷を唱える。
「動きが硬いな。少しは楽になるはずだ」
柔らかな光が腰を包むと、老人の顔がわずかに和らいだ。
「……ふん。まあ……少しは良いかもしれん」
エリオットは火のそばで古書を広げ、山の歴史を語り出す。
「この尾根にはかつて砦が築かれ、今も遺構が点在しています。魔物が群れるのも、その影響でしょう」
「小難しい話はごめんだ」
老人はそっぽを向いたが、その声は先ほどより刺々しくはなかった。
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3 昼食
昼。
レンが割った薪で暖炉は勢いよく燃え、チーズと黒パンの食卓が整う。
ミリアとリーナは花を摘んでテーブルに飾り、二人で笑い合う。
「綺麗に咲いたね」
「うん……花は寂しくないから」
老人はその光景を見つめ、わずかに目を細めた。
「……あの子に、友ができるとはな」
また咳払いで誤魔化したが、声はどこか柔らかかった。
アリアは真顔のままパンを口にし、低く言った。
「……鐘を鳴らさずに済む、静かな時間だ」
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4 夜の影
だが夕暮れ。
外で山羊が鳴き、リーナの悲鳴が響いた。
「きゃあっ!」
全員が立ち上がる。
レンが槍を握り、ボリスが聖印を掲げ、エリオットが呪文を紡ぐ。
ミリアはリーナを抱き寄せる。
扉を開けると、茂みから複数の狼型の魔物が姿を現した。
牙を剥き、リーナを狙っている。
老人は震えながらも叫んだ。
「……あの子には指一本触れさせん!」
その叫びに背中を押されるように、仲間たちは武器を構えた。
アリアは剣を抜き、真顔のまま前へ出る。
「……ここで食い止める」
戦いの火蓋が切られた。
(つづく)




